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引っ越し[8]

どちらともなく唇を重ねる。 角度を変えて、何度も、何度も。 唇から溶け出して、身体がひとつになっちゃいそう……。 気持ちよくて蕩けちゃいそうで、力が抜けて体を預けると、悠さんは唇を重ね合わせたまま俺を持ち上げて、ベッドへと運んだ。 「……ご飯は?」 まぶたを開けて見上げる。 「……コンビニでいいか?」 「いいですよ」 「じゃあ先に皐月を───いただきます」 いただかれます、って心の中で唱えて、のし掛かってきた悠さんの唇を……… ピンポーン─── 「………」 「………」 ピンポーン…ピンポンピンポン─── 「………すごい、鳴らしてるね」 「あーっ、誰だよ、夏木か?」 悠さんは珍しく不機嫌に身体を起こすと、再び鳴り出したチャイムに向かって悪態をつきながら玄関へ歩いて行く。 俺は服の乱れを直してから悠さんの後を追いかけた。 この音は、エントランスからじゃなくて、直接ドア横のチャイムを鳴らしてる音だ。 「はい!どなた?」 悠さんは、モニターをチェックするのも忘れて、直接玄関向こうへ問いかける。 覗き穴から外を見て、そして、 「声出さなきゃ良かったー…」 床に崩れ落ちた。 「私です。早く開けてくれる?」 ダンダン、とノックの音が響く。 その声に覚えがあって、俺も靴を履くと覗き穴に目を近付けた。 「あっ、やっぱり」 カギを開けて、ドアを手前に引き開ける。 「こんにちは、麗さん!来てくれたんだ!」 手を繋いで中に引き入れた。 「あら、相変わらず可愛い。こんにちは、皐月」 「えへへ、ありがとう。麗さんもキレイだよ!」 美人に褒められると照れるな…、なんてちょっと赤くなってると、悠さんに抱きくるめられて麗さんと手が離れてしまう。 「あ…えーっと……」 わかってると思うけど浮気じゃないよ、と伝えると、麗さんは呆れたように笑って、 「分かってて不機嫌なのよ、兄さんは」 俺の頭を優しく撫でてくれた。

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