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家族[2]

「で、これは私から皐月への引越祝い」 渡されたのは、麗さんが肩にかけてた大きめの紙袋。 俺でも知ってるブランドの名前が書いてある。 「え?俺に…だけ?」 悠さんだけに、なら分かるけど、俺にだけだなんて…… 「開けてみてくれる?趣味に合えばいいんだけど」 「うん……」 戸惑いながら紙袋の口を大きく開ける。中には更に厚手のビニール製の袋。 それも開くと、今度は薄葉紙に何かが包まれているのが透けて見えた。 厚手の布……服? 丁寧にセロハンテープを剥がして取り出す。 「えっ、コート?」 「合わせてみて」 促されて、羽織ってみる。 ファーの付いた、ユニセックスのカッコ可愛いコートだ。 「あら、やっぱり似合うじゃない。さすが私の見立て」 可愛い可愛いと繰り返す麗さんの隣で、悠さんも満足そうに頷いてる。 「でも、麗さん…、これ、高そう……」 プレゼントしてくれるのは嬉しいけど、いいのかな…? 不安になって見つめると、麗さんは何でもない風に笑って、いいのよ、と答える。 「可愛い弟……じゃないわね、義兄? 兎に角、皐月は私の家族なんだから。 家族にはいくら掛けたって気にしないものなのよ。今までご両親から、大学行かせたお金返せーって言われたことある?」 「ううんっ」 首を横に振ると、ポロリと涙が零れ落ちた。 「で、勝手にあげておいてお願いがあるんだけど」 麗さんは嬉しそうに微笑むと、目尻にハンカチを当ててくれる。 「正月休みに、それを着て家に遊びに来てくれない?」 「うん!行きます!」 「そう。母さんも喜ぶわ」 頭をふわふわ撫でられる。 後ろから、悠さんが大きく息を吐き出すのが聞こえた。 「次は春の彼岸と決めていたんだが…」 「そんな事だろうと思って、手を打たせてもらいました」 「皐月を利用したな」 「人聞きの悪い。これは一目惚れして買ったのよ。絶対皐月に似合うってね」 「趣味は悪くない」 「グラフィックデザイナーだもの。視覚的センスには自信があるわ」 遠慮無く言い合う2人。 「ああ、それから兄さん。お重の中身3人前だから、私も夕飯ここで頂くわよ」 「…お前、まさか泊まっていくつもりか?」 「まさか。安心して、ちゃんと駅近でホテル取ってあるから。この後リュートのお店に行くし、夜のお邪魔はしないわよ」 これが兄妹───悠さんの描く家族の姿なんだ。 「リュートの店を出る時に電話をしろ。ホテルまで送っていく」 「あら、優しいのね。でもいいわ。功太君にお願いしたから」 俺も家族だって……。 俺も、ここに入っていって…いいのかな……? 「悠さん……」 「ん?どうした、皐月」 優しい、愛おしむような眼差し。 「俺、家族だって。麗さんが…」 「なんだよ。俺だけじゃ駄目なのか?」 からかうように、涙に口付けられる。 「だって、嬉しい……」 瞬きすると、涙は大粒になってあごへと滑り落ちる。 「嬉しいよぉ…っ」 ガバリと、包み込まれるみたいに抱きしめられた。

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