145 / 298
家族[2]
「で、これは私から皐月への引越祝い」
渡されたのは、麗さんが肩にかけてた大きめの紙袋。
俺でも知ってるブランドの名前が書いてある。
「え?俺に…だけ?」
悠さんだけに、なら分かるけど、俺にだけだなんて……
「開けてみてくれる?趣味に合えばいいんだけど」
「うん……」
戸惑いながら紙袋の口を大きく開ける。中には更に厚手のビニール製の袋。
それも開くと、今度は薄葉紙に何かが包まれているのが透けて見えた。
厚手の布……服?
丁寧にセロハンテープを剥がして取り出す。
「えっ、コート?」
「合わせてみて」
促されて、羽織ってみる。
ファーの付いた、ユニセックスのカッコ可愛いコートだ。
「あら、やっぱり似合うじゃない。さすが私の見立て」
可愛い可愛いと繰り返す麗さんの隣で、悠さんも満足そうに頷いてる。
「でも、麗さん…、これ、高そう……」
プレゼントしてくれるのは嬉しいけど、いいのかな…?
不安になって見つめると、麗さんは何でもない風に笑って、いいのよ、と答える。
「可愛い弟……じゃないわね、義兄?
兎に角、皐月は私の家族なんだから。
家族にはいくら掛けたって気にしないものなのよ。今までご両親から、大学行かせたお金返せーって言われたことある?」
「ううんっ」
首を横に振ると、ポロリと涙が零れ落ちた。
「で、勝手にあげておいてお願いがあるんだけど」
麗さんは嬉しそうに微笑むと、目尻にハンカチを当ててくれる。
「正月休みに、それを着て家に遊びに来てくれない?」
「うん!行きます!」
「そう。母さんも喜ぶわ」
頭をふわふわ撫でられる。
後ろから、悠さんが大きく息を吐き出すのが聞こえた。
「次は春の彼岸と決めていたんだが…」
「そんな事だろうと思って、手を打たせてもらいました」
「皐月を利用したな」
「人聞きの悪い。これは一目惚れして買ったのよ。絶対皐月に似合うってね」
「趣味は悪くない」
「グラフィックデザイナーだもの。視覚的センスには自信があるわ」
遠慮無く言い合う2人。
「ああ、それから兄さん。お重の中身3人前だから、私も夕飯ここで頂くわよ」
「…お前、まさか泊まっていくつもりか?」
「まさか。安心して、ちゃんと駅近でホテル取ってあるから。この後リュートのお店に行くし、夜のお邪魔はしないわよ」
これが兄妹───悠さんの描く家族の姿なんだ。
「リュートの店を出る時に電話をしろ。ホテルまで送っていく」
「あら、優しいのね。でもいいわ。功太君にお願いしたから」
俺も家族だって……。
俺も、ここに入っていって…いいのかな……?
「悠さん……」
「ん?どうした、皐月」
優しい、愛おしむような眼差し。
「俺、家族だって。麗さんが…」
「なんだよ。俺だけじゃ駄目なのか?」
からかうように、涙に口付けられる。
「だって、嬉しい……」
瞬きすると、涙は大粒になってあごへと滑り落ちる。
「嬉しいよぉ…っ」
ガバリと、包み込まれるみたいに抱きしめられた。
ともだちにシェアしよう!