153 / 298
馴れ初め[2]
【夏木Side】
「会社の友達と行ったバーのマスターが、リュートさんだったの。そんでまあ、そうこうあって、こういう事に」
「功兄、流石に端折り過ぎでよく分からない…」
涼太にそういう困った目で見られると、ちょっと弱い。
「バーのマスター相手に、お前よく物怖じせずに手ェ出せたなー。相手も男好きかどうかなんて分かんねーだろ?」
2本目のビールに手を出した壮太が、脚を投げ出すよう座り直しながら訊いてくる。
「いや。だってリュートさんの店ゲイバ……あー…」
ヤバイ、口走ったと思った時にはもう、食い付かれてた。
「お前、ゲイバーに友達と行ったって、それ友達じゃなくて……」
「いやっ、それは友達!マジ友達!」
「んな訳あるか!」
「マジで!そいつノンケだし!」
「のんけ…?」
「ストレート───あの…、女が好きな男の事」
なんでこんなこと家族に説明しなきゃなんねーんだよ、俺は……。
なんだか惨めな気分になってると、涼太が気遣わしげに顔を覗き込んできた。
弟たちは可愛い。ヨシヨシ。
「んで、なんやかんやで、」
「そのなんやかんやを聞かせろっつーの」
ホントにこいつは涼太と奏太の兄弟か?ほんっと壮太は可愛くねーなあ。
同じ年上でも、リュートさんはあんなに可愛いのに。
「まあ…初めて行った時はなんもなく……まあ、1杯ご馳走してもらったけど」
「その、ノンケのオトモダチに?」
……信じてねーな。広川はマジでノンケなのに。
「いや、リュートさんに」
「は?なんで!?」
「だからさ、お詫びにっつって。ちょっと会社に戻ってる間に、ツレがリュートさんの従兄に攫われて」
「攫われて!?」
「結局、今その友達、そのイトコのお兄さんと付き合ってんだけど」
「いや、待て!」
「あー?続き話さないでいいワケ?」
「いや、続きの前に、友達ノンケなんだろ?」
壮太はビール瓶の王冠を2個、卓上に並べて置く。
「これお前、これノンケ」
すっかり言葉を使いこなしてるのは別に良いんだが、広川のことをノンケって呼ぶのはやめてもらえないだろうか。
「んで、お前はノンケが好きでゲイバーに連れてった」
「……はあっ!?」
なんだ!?なんでバレてんだ、そんな事まで!!
俺がメチャクチャ焦ってんのに、壮太はなんら気にすることもなくもう2つ王冠を卓上に上げる。
「で、これがリュートさん。お前が居なくなってる間に…」
俺の王冠、撤退。
新しい王冠が広川の王冠に寄っていく。
「これお兄さん、これ女好きなノンケ。んで、なんでココがデキちゃうんだよ!?」
カツンカツンって、金属音。
広川と香島さんの王冠ぶつけんな!
あの2人、マジ目の前でそんななんだよ。見せられてる方は恥ずいんだよ。独り者時は更に辛いんだよ。
「いや、なんかその人スペック超高くってさ。超イケメンで、背も185cmあって、んで青年実業家なの。あの人に口説かれたら男でもクラッとくるんだって。んで、広川は超素直で純粋な奴だから…」
「広川っつーの!?お前の元カレ」
「違う!広川には片想いのま……ごほっ、それはもうどーでもいいの!そこら辺マジデリケートなとこだから、リュートさんも気にするから」
なんだよコイツは、俺達の馴れ初め聞きたかったんじゃなかったのか?
広川のことはいーだろが、もう終わってんだし!
「そっから、半年後ぐらいにもう一回リュートさんの店に行ったんだよ」
「ほうほう」
こいつの相槌イラッとくんなぁ…。
「で、そこで広川が香島さんと付き合ってるって知って、俺が勝手に失恋したの。広川とはマジなんも無かったの。
その後はまあ、誰かいい人見つかんねーかなってリュートさんの店に通ってて」
「功兄、いい人いたの!?」
「1人な。いいかなーって人がいたんだけど……」
その人と店から出ようと思っていた矢先、
─── 功太、この後僕に付き合ってくれる?淋しいんだ。一人で居たくない……
そう耳打ちされて誘われたことは、流石に親父と弟達の前では言えない。
ヤバイ色っぽかったよなぁ、リュートさん。
囁かれただけで俺、勃っちゃったもん。
ともだちにシェアしよう!