154 / 298

馴れ初め[3]

【夏木Side】 「えーっと、…いやー……、ほら、その時俺既にリュートさん目当てに通ってたからさ、結局そっちにいかなかったっつーか…、駅までは送ってったけど」 なんとか誤魔化しながら説明すると、奏太が嬉しそうに腕に抱き付いてきた。 「そうなの!功兄って男にもモテんだー、スゲー!」 なんでか尊敬のまなざしを向けられる。 「いや、モテねーし、つか何?俺女にもモテねーけど」 「えー?うふふ~っ」 「なんだよ、グフフって。変なヤツ」 「グフフなんて言ってなーい!」 ボカボカっと胸を叩かれた。 なんだこのほんわかする気持ちは。これが弟萌えってやつか? 「………カナ、逃げろ」 「弟に手ェ出さねーよ!ゲイなめんな。男だったら誰でもいい訳じゃねーよ」 「え、そーなん?」 「そう!テレビの人たちの所為でそう思われてんのかもしんねーけどな、あんなんテレビパフォーマンスで男にキャーキャー言ってんだけだろ。女好きな男にだって好みとかあんだろ?俺達にもそーいうのあんの。俺は今、リュートさんにしか萌えねーの」 「えー!じゃあリュートさん、俺には萌えねーの?」 「萌えねーよっ!」 まったく……油断も隙もないヤツだ。 こいつ、ノンケじゃなかったのか? もしかしてバイか? つか、オンナいたよな、確か。 「リュートさんにちょっかい出すなよ」 「不本意だけど俺、お前に似てると思わねえ?」 「思わねえ!」 酒飲んでっし、リュートさん美人だし、不本意だけどコイツ俺に似てるし………壮太は危ない!! 薄笑う壮太を睨みつけてると、 「功太ー!ティッシュ持っといで!」 母さんに大声で呼ばれた。 なんだ?ティッシュ? 玉ねぎでも切ってて鼻垂れてきた? 涼太が渡してくれたティッシュケースを持ってキッチンに移動する。 ───と、リュートさんが、泣いていた。 母さんがティッシュを一枚リュートさんの鼻に当ててかませる。 なんで、泣いてるんだ…? ヤなこと言われた? 俺が傍にいなかったから、傷付けられた? 「母さん、リュートさん泣かした?」 「ああ、泣かしたねえ」 「なんで泣かすんだよ!」 「あっ、違う違う、功太!」 食って掛かった俺を、リュートさんが慌てて止めた。 「お母さんが嬉しいことばっかり言ってくれるから、僕が勝手に泣いちゃっただけなんだよ。ごめんね、年上のくせに泣き虫で」 「え、そうなの?」 少し恥ずかしそうに笑ってみせる。 綺麗な笑顔だ。無理して笑ってる訳じゃない。 ───そう、だよな……。 あんな風に受け入れてくれた母さんが、リュートさんを虐めるなんてあるワケねーじゃん…。 母さんの姿を正面から捉える。 ……なんだよ、嬉しそうな顔して。 俺が大学受かった時より、もっと笑顔じゃねーかよ…。 「疑ってごめん。それから……ありがと…」 母さんに向かって頭を下げた。 「なによ、お礼なんて言って」 母さんは俺を、カラカラと楽しそうに笑い飛ばす。 「リュートはうちの子なんだから、アンタがありがとうなんて言う必要無いの。そんな事より、功太!」 リュートさんが使ったティッシュを投げつけられた。 顔面に指を突きつけてくる。 「私にもう一人息子を作ってくれてありがとう。リュートのこと幸せにしなかったら、承知しないわよ!」 ───っ…… 受け入れてくれるだけで、有難いと思ってたのに……、なんだよ、コレは…… 「……分かってるよ」 ヤベー…、リュートさんだけじゃなくて、俺も泣いちゃいそうだ。 「リュートさん、俺たちずっと、幸せでいようね」 ボロ泣きのリュートさんの名前を呼んで、おいでと腕を広げる。 泣いてるリュートさんを抱きしめるのは、香島さん風に言えば、俺だけの特権、だから。 なのにリュートさんは俺の目の前で、何故か母さんの腕の中に飛び込んで行く。 「なんで!?」 驚いて叫ぶと、母さんにニヤニヤと笑われた。 そしてリュートさんにも、クスクス笑われてしまった。

ともだちにシェアしよう!