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美人と末っ子[3]

【夏木Side】 と、複眼に、壮太がバクバクと食べ続ける姿が映った。 その箸には、まぐろの刺し身が2枚も重ねて摘まれている…!! 「───ばっ、フザけんな、壮太っ!なに一人でドカ食いしてやがる!」 「あー?お前が勝手に食わねーでフラフラしてっから、傷む前に食ってやってんだけだろ。久々帰って来たってだけで客でもねーのに、俺に気ィ遣ってやる義務でも生じるっつーんですかあ?」 「リュートさんの取り分も減るだろ!」 「あっ…功太っ、僕なら別に…」 「リュートさんはうちの嫁、言ったら俺の嫁だろ」 「誰がテメーの嫁だ!リュートさんは俺の嫁だ!」 「なら弟と天秤掛けて泣かしてんじゃねえ!」 「はあっ!?誰が天秤───」 「壮太功太!!」 壮太との言い争いの途中、突然降り注いだカミナリに条件反射、肩がビクリと震えて身体が固くなる。 そろりと顔を向けると、親父がいつもは温厚なその糸の目をギンと開いて、壮太と俺を順に睨み付けた。 「食事中に騒がしい。廊下で正座して反省して来い」 「「……はい…」」 重い腰を上げ、先に立った壮太に続いて食卓を後にする。 福の神が鬼化すんの、久々に見た。 高校の時以来か? 壮太も俺もでっかくなってる筈なのに、相変わらず体が強張る。 なんでか未だに、鬼福には逆らえねぇ……。 部屋を出る時チラリと振り返ると、リュートさんが心配そうに俺を見つめてた。 それを見て、漸く俺はハッと気づく。 リュートさん、スゲー緊張して家に来てくれたのに、母さんに懐いてるからってほっぽりっぱで奏太と楽しげにトークかましてたりして…… ヤキモチ焼きのリュートさんが、焼かない訳ないじゃん。 今も親父に叱られたからってリュートさん放置で部屋出ようとか……あーーっ、もう!超馬鹿だ、俺!! 踵を返して親父の目の前、正座をして頭を下げた。 「食事中に騒いですみませんでした。リュートさんの傍に居たいので、どうか許してください。もう喧嘩しません!」 スーッと襖の閉まる音がして、隣に誰かが座る気配がした。 「すみませんでした!」 壮太───か? 壮太も手を揃えて、頭を下げてる。 えっ?壮太って、頭下げられたのか!? 「……お父さん」 母さんが声を掛けると、ピリピリとしていた親父の雰囲気がふっと、柔らかいものに戻った。 「壮太、功太、食事に戻りなさい。二人共、リュート君に感謝するように」 「っ…はい!」 頭を下げて、リュートさんの隣に戻った。 「ごめんね、リュートさん」 謝ると、笑顔で首を横に振ってくれる。 だけど、それとは別に、リュートさんの姿に違和感。 「……なにしてんの…?」 尋ねた先は、リュートさんではなく、その腰にしがみついてる末の弟。 「リュートさんに、意地悪してごめんってしてる」 見上げてくるその瞳から、涙がポロリと零れ落ちる。 って、意地悪ってなんだ。 「意地悪したのか?」 「だって、俺の功兄、横取りされたみたいでヤだったから…っ。功兄、リュートさんの話する時ずっとニヤけてたし、俺に全然構ってくれないし、リュートさんばっか抱っこするしっ!」 「そんな事ないよ!功太は奏太君と一緒の時も、ずっとニヤけてたよ!」 ちょっ、奏太にリュートさん!? それじゃ俺、ずっとニヤけてるヤバイ奴みたいじゃん!! 「え、えー……、じゃあ俺真ん中座るから、二人の間、空けてもらってもいい?」 最適な提案をして、2人を離すように肩に手を掛けた。 なのに奏太は途端に不機嫌な声を出す。 「ヤダ。俺、リュートさんの隣がいい」 「僕も、奏太君の隣がいい」 「えっ、じゃあ俺はどこに座ればいいの?」 「「お父さんの隣に行けば?」」 「なんで!?」 俺の隣に座りたいとさっきまで言ってた筈の2人の声がハモって、驚けばクスクスと2人顔を見合わせて笑われた。 なんだよ俺、2人のオモチャにされてる? 親父を見ると、一緒になってニコニコと笑ってる。 福の神復活。 ってか、2人には騒がしいって言わねーのかよ。 美人と末っ子には甘いとか………俺にも通ってる、親父の血の所為だったんだな。

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