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ごめんなさい[1]
【夏木Side】
何処まで話して平気なんだろう…?
俺はそんなことを考えて、色んな事を話せずに躊躇していたのに……
リュートさんは訊かれること総て、訊かれていないことすらも、秘密なんて無いってぐらいにうちの家族に様々なことをぶっちゃけた。
両親の事、香島家のこと、それから、
「僕が先に、好きになったんです」
「えっ?…は?えっ…いやいや…」
リュートさんの言葉は、寝耳に水だった。
てか、無い無い。だって俺、広川に失恋した後、リュートさんに逢いたくてローズ通ってたんだし。
リュートさんに誘われたの、暫く通ってからのことだったし。
だから、俺のが先に好きになってたに違いない。好きって認めたのは遅かったけどさ。
大体こんな綺麗な人が、俺に先に惚れてくれるとか有り得ねーし。
なのにリュートさんは、
「初めは僕の片想いだったんです」
勘違いのままにそう告げる。
もしかして、俺の親の前だからって気ィ遣ってくれてんのかな?
そんなことする必要無いのに。
誰だって、俺が先に好きになって必死に口説き落としたんだって言った方が、信憑性あるって納得する。
「リュートさん、家族の前だからって、気ィ遣ってくれなくてもいいよ」
頭を軽く撫でてそう告げると、リュートさんが振り向いて、俺を見つめた。
リュートさんは目を丸くして、俺が首を傾げて見つめ返すと、徐々に目が細められて、眉間に…シワ、が……!?
「功太。気を遣うって、なに?」
「えっ…」
これ、なんか怒りに触れたパターンのやつ!?
「いやっ、だって、俺のが先じゃね!?」
「僕の方が先です」
「えっ、だって俺、結構ローズ通ったじゃん!」
「半年も来てくれなかったくせに!」
「えっ、半年ってなに!?」
「……もういいです」
プイッとそっぽを向かれた。
頬が膨らんでる。
ヤベー、可愛い……
ツン、と突付くと、親父の陰に逃げられた。
「リュートさん、いいの?俺、奏太抱っこしちゃうよ」
腕を引き寄せると、奏太は嬉しそうに膝に乗ってくる。
「僕もお父さんに抱っこされるから、いいです」
親父はニコニコして、隣に座ったリュートさんの頭を撫でた。
そりゃ、こんな美人にそんな事言われたら、男はデレッとしちゃうわな。
「えー、俺に抱っこされようよ、リュートさん」
リュートさんに声を掛けながらも、壮太はこっちを見てニヤニヤ笑う。
絶対アイツ、俺にケンカ売ってやがる。
「こら、壮太」
母さんが壮太の頭をポカリとやった。
また揉めて親父に怒られたくねーし。
「リュートさん、ねえ、半年ってなに?」
俺は壮太を無視して、まだ唇を尖らせてるリュートさんに声を掛ける。
ジトッと責めるような視線を浴びせた後、リュートさんは短い溜息。
「功太が初めてローズに来た日、ナイトアフロディーテ出したの、覚えてる?」
ナイトアフロディーテって、カクテルの名前だっけか。
あの、ピンクと青のキラキラしたやつだよな。
「リュートさんがお詫びにご馳走してくれたやつだよね。ちゃんと覚えてるよ」
さっきも皆に初めて会った日の話した時出てきたし。
「お詫びっていうのは口実で、…あれはうちの店のオリジナルカクテルで、」
親父の陰から俺の顔を伺うように、そっと覗いてる。
相変わらずの小動物的行動が可愛い。
「気になった人を口説く時に贈るカクテルで、…あの日僕は功太に、また来てって何度も伝えたのに……」
「へっ…?」
「半年も来てくれなかった上に、半年経ってもまだ皐月くんのことが好きで、堂々と僕の目の前で兄さんの恋人口説いてたくせに……」
リュートさんは視線を厳しくして俺を見つめると、
「僕に逢いたくて店に通ったなんて、よく言えたね」
プイッと、顔を背けるどころか、身体ごと後ろを向いてしまった。
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