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Pretty Kitty[2]
【悠Side】
「そう言えば、この前リュートがおかしな事を言ってたぞ」
ミックスナッツをつまみながら、ふと思い出したことを話す。
「昼間に買い物に出かけたら、スーツの男に声を掛けられたんだと」
「えっ、スーツって…、それリーマンのナンパじゃないっスか!」
「だろ?」
リュートが買い物というと歩ける範囲だろうし、一人であまり遠出をする事もないから、この辺の一番近いスーパー──皐月と夏木の会社のあるビルの1階に入っている大手チェーン店へ行ったのだろう。
1階のスーパー、喫茶、レストラン、ファーストフード店。それから数件入っている医療施設以外は地上14階まで一般の会社が何十社も入っているから、そこの社員か、或はそこに用事のあった者か。
近くの会社の人間かもしれない。
JRに、地下鉄と、近くに駅が3つある。空港へ続くモノレールの駅に、港まである。
新橋ほど有名ではないが、往来の会社員 の数は桁外れだ。
「それがさ、アイツ、きっとゲイビのスカウトだって言うんだよ」
「って!言うに事欠いてAVとか!!」
夏木が大袈裟に椅子からずり落ちる。
「お前と付き合うようになったから、色気が出てきたのかも、だと」
「色気なんか俺と付き合う前からありまくりだったじゃんよ!」
おかしな方向に怒りを覚え、夏木はプリプリと怒りだす。
「てか、なんだよその勘違い。香島さん、なんでそう思ったか訊いてくれました!?」
「ん?静かな所で2人で話さないかって誘われたんだってよ」
「それ、ついてったらエライ事になんじゃん!あの人、客に手ぇ握られただけで、俺以外に触られんのは嫌だっつーんですよ!?」
「なんだ?惚気か?」
「惚気とかじゃなくって!~~~っ、俺、お仕置きしてきます!」
夏木は鼻息荒く、リュートの元へ歩いて行った。
なら、俺達はそろそろ帰るかな。
夏木の勢いに困ったようにこちらを見た皐月を、手招きで呼び寄せる。
「皐月、帰るよ」
「えっ、えっ、でも、リュートさんがっ」
「リュートは、これから夏木にお仕置きされるの、愉しみにしてるから」
額をコツンと合わせると、伝えたことに思い当たったのか、顔を赤く染めて慌て出す。
「あっ、じゃっ、じゃあ!俺たち早く帰らないと!」
「リュート!俺たち玄関から帰るぞ」
振り返って伝えると、リュートは水槽を背に壁ドンされた状態で赤い顔を何度も頷かせた。
いや、壁じゃなくて、水槽ドンか。
「悠さんっ、はやくはやくっ」
皐月が俺の手を取り、慌てたようにカウンターの跳ね上げ扉を開けた。
確かに、人の情事は──特に夏木とリュートの行為は見たくないものだ。
居住側の玄関を出、エレベーターに乗り込む。
玄関はオートロックだから、施錠の必要がない。
鍵を忘れて出ると厄介だがこういう時に便利だな、と思い当り、つい軽く吹き出してしまう。
『こういう時』が頻繁にあるのも、考えものか。
7階のボタンを押して扉が閉まると、皐月が俺の顔を見上げて嬉しそうに笑った。
「どうした?」
少し屈んで顔を覗き込むと、繋ぐ手にキュっと力を込めて、えへへ、とはにかむ。
可愛いな……
掌で頬に触れると、スルリと逃げられた。
「エレベーターすぐ着いちゃうから、うちに帰ってから……」
少しもじもじしたかと思えば、赤く染まった顔で恥ずかしそうに見上げてくる。
「悠さん…。俺のこと、いっぱい可愛がってくれますか?」
電子音が響いて、エレベーターが停まる。
小走りで部屋の入口まで行くと皐月はくるりと振り返り、カードキーを取り出した俺を待って、幸せそうに笑った。
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