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CM撮影[2]
───って、そんな話をしたいんじゃなかった!そんなことよりっ!
CMは有名なアイドルグループのメンバーがメーンで、バーテンダーには若手イケメン俳優。
撮影は15時からだけど、何時まで掛かるか分からないからって今日の営業は臨時休業にしようってことになった。
見に行ってもいい?って訊いたらリュートさんは苦笑して、
「仕事をちゃんと終えてからならね」
って言ってくれた。
だから今日は就業終了時刻に合わせて完璧に仕事を終えて、チャイムが鳴ると同時に机の上を片付けて、
「お先に失礼します!」
って、挨拶をして机を離れたんだけど………
エレベーターホールで夏木を待っていたら、営業二課の佐竹さんに捕まってしまった。
この前、ローズの休業日に食事に誘ってくれた先輩だ。
「ごめんなさいっ!」
懲りずにご飯に誘ってくれた先輩に、俺はまたもや謝らなくちゃいけない。
この間も断って、今日は「夏木も一緒でいい」って言ってくれたのに。
「今日も無理なのか?」
佐竹さんは、その表情に陰を落とす。
「ごめんなさい。用事があるんです」
「広川は忙しいんだな」
「ごめんなさい。いつもは水曜は大丈夫なんですけど、今日はどうしても外せない用があって」
俺が行かなくても誰も困らないんだけど、でもローズが臨時休業なのに夏木を帰らせないとか、それは有り得なくて。
リュートさんは夏木のこと待ってるだろうし、悠さんもなるべく早く帰るって言ってた。
俺一人で行ったら、悠さんに心配かけちゃうし。
「なら、来週水曜日でどうだ?」
「えっ?」
「夏木も一緒で」
下げていた頭を上げる。
「別に、困らせたい訳じゃねーよ」
ぽん、と頭を撫でられた。
「えとっ、…じゃあ、夏木が大丈夫なら」
「ああ。約束な」
「はい。誘って頂いてありがとうございます」
頭を下げてお礼を言ってると、
「広川…?」
夏木の怪訝そうな声が聞こえた。
「あっ、夏木おっそい!早く行かなきゃ終わっちゃうだろ!」
「おう。…あー、佐竹さん、失礼します」
夏木がへらっと笑って会釈すると、佐竹さんははぁ…と重く息を吐きだした。
そして夏木も、佐竹さんが見えなくなったエレベーターの中で、重たく息をついたのだった。
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