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許し

あの後悠さんは本当にすぐにローズに来てくれて、泣きじゃくる俺を慰めるように、スーツが汚れるのも気にせずに強く、優しく抱き締めてくれた。 泣き止むのを待って話を聞いてくれようとしたんだけど、俺はなによりリュートさんがヒドイことをされたんだって早く訴えたくて、しゃくり上げながらそれを伝えようと必死に口を動かした。 悠さんは聞き取りづらい言葉を懸命に聞き取ってくれて、 「わかった。皐月、よく頑張ったな」 俺が名刺を二枚渡すと、抱き寄せて頭を撫でて、褒めてくれた。 「後は俺に任せなさい。もう大丈夫だから、泣かなくていい」 涙と鼻水で汚れた俺の顔。すっごく汚いのに、悠さんは目尻にちゅって口付けて、愛しそうに頬擦りをして、安心させるように微笑ってくれる。 優しい悠さん。 だいすき。ほんとに、すっごくだいすき。 だけど、俺は…… 「俺っ、悠さんにそんな風に言ってもらえる価値っ、ないんだ!」 「皐月、そんな風に言わない」 「だって俺……ヒドイこと、言ったんだ…。怒りに任せて、女の子、傷つけるようなこと、平気で言った。憎いと思った…から、俺…許せなくって……いけないこと…っ」 悠さんは何か言いたげに口を開きかけたけれど、それでも俺の言い分を最後まで聞いてくれて、俺がしゃくり上げて黙り込むと、 フウ───ッと、深く息をついた。 「皐月、リュートの為に怒ってくれて、ありがとう」 「そんなのっ!」 当たり前だ。だってリュートさんは俺にとってお兄さんみたいな存在で、俺の大好きな人。 ヒドイことされたら、相手に怒るのなんて当たり前だ。 「でも俺、あそこまで言わなくても良かったんじゃ、って」 「皐月」 身体を押し離されて、不安に苛まれる間も無く、ほっぺを両手で包み込まれた。 悠さんの顔が近付いて、唇に優しい感触が触れる。 「皐月のやったことは、酷いことじゃない。もし、世界の誰もがお前を責めても、俺が許すよ」 「…ゆ…う、さん……」 「俺が皐月を許す。それじゃ、駄目か?」 俺のことを好きだと言ってくれる、愛してくれる人が、許すと言っている。 世界中の人が俺を責めても。 それじゃ、ダメだと思う。 自分に甘い人が許すという、その言葉に甘えちゃ、きっとダメだろうって。 でも俺にとってこの人の言葉は、他のどんな巨大な存在よりも、───なによりも、大きい。 「許しが欲しいなら、俺も許すよ、広川」 背後から聞こえた声に、ビクッと顔を上げる。 「てか、感謝してる。トイレん中でもお前の声、聞こえたよ。俺の言いたかったこと全部、広川が言ってくれた。マジでスッキリした」 振り返って姿を確認する。 夏木の腕に、泣き疲れたのか、目を閉じてぐったりとした様子のリュートさんが抱えられていた。 目の周りと唇とが真っ赤に腫れている。 その姿が居た堪れなくて、止まっていた涙がまたブワッと噴き出した。 「…おれっ、リュートさん、女の子相手でも危ないって…思っ…てて…、なのに、守れなかった…っ」 「違うだろ。守れなかったのは、俺だ」 夏木は俺に、平気だよ、と伝えるように、やんわりと微笑んで見せる。 …ムリ…しなくて、いいのに……。 だけど、…その通りだ。 夏木の言う通りだ。 リュートさんを守ってるのは夏木なんだから、俺の出しゃばるとこじゃない。 「……ごめん、夏木……ごめん…」 「だから、謝んなくていいって。───じゃ、ないか」

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