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電話は耳に当てるもの
後のことは自分に任せるようと悠さんが言うから、その日はそれで部屋に帰った。
悠さんに任せておけばもう安心。って。
俺も、リュートさんも、夏木も。多分皆がそう思った。
───だけど、問題はそれだけじゃ、終わらなかったんだ。
翌日、俺はいつも通り出勤し、慣れたデスクワークを黙々とこなしていた。
夏木は休むのかなって思ってたんだけど、リュートさんに大丈夫だからと追い出されたらしい。
時間ギリギリに、文句を言いながら出勤してきた。
それでも今日はローズを休業にするようにと口を酸っぱくして言ってきた、と。やっぱり夏木はすごく心配そうだった。
夏木は1秒でも早く帰りたがっていたけど、仕事じゃそういうわけにもいかない。
渋々ながら外回りへと出かけて行った。
夏木が戻るまでは俺が傍にいよう。
終業のチャイムが鳴る数秒前、こっそり片付けを始める。
そしてチャイムと同時に立ち上がり、何か言われるより先に、
「今日はお先に失礼します!」
会社から飛び出した。
エレベーターホールでエレベーターを待っている間、光っていたスマホをチェックする。
悠さんから、Limeが届いてる。
『仕事が終わったら連絡して』
その一言だけ。
開いた扉からエレベーターに乗り込むと、電話帳から悠さんのデータを開く。
そして降りた瞬間に、通話ボタンをタップした。
『皐月か?』
9回コール目に応答があった。
「悠さん、何かあった?」
いつもは「今大丈夫ですか?」って訊いてから話すのに、そんなことすら忘れてそう訊いていた。
『皐月は仕事、』
「終わったよ!今からリュートさんとこ行く」
『ありがとう』
「ありがとうじゃないよ!俺だって、リュートさんの家族みたいなもんだろ」
告げられたお礼の言葉に文句を言うと、悠さんの息を飲む声が聞こえて、それから、フゥーって息を吐きだす音。
「……なに?」
図々しいって呆れられた訳じゃないだろうけど…。
ちょっと不安になって尋ねると、
『皐月、愛してるよ』
腰砕けちゃうんじゃってくらい、甘く優しい声で、囁かれた。
「はぅぁ…っ」
『ん?どうした?』
分かってやってんだろうに、くすくす笑いながら訊いてくる。
いじわる……。
「俺、スマホ、耳に当ててんだけど…」
『分かってるよ。電話だからな』
「……もう…」
『それより皐月』
急に悠さんの声音が固いものになった。
不安に胸が騒いで、落ち着けるために、スマホをギュッと強く握る。
『その様子だと、種崎ゆかりのツイッター関連のネットニュースはまだ見ていないようだな』
「種崎…、昨日のアイドル?」
『ああ。昨夜の種崎のツイートで、ローズのサイトが炎上している』
「えっ、な…、なんでローズが!?」
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