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新米弁護士[2]
【悠Side】
田崎先生はこの依頼を、この若弁護士の育成のために利用しようというのか。
『この類の案件』と言う物言いもまた、気に入らない。
この類のもの、と一括りにされてしまうことが、どうにも気に食わないのだ。
傷付いた者に対し、同じような思いをしている人が他にもいる、自分だけではないのだからから我慢しろ、と言っているように感じる。
傷付いているのは、心が泣いているのは他の誰でもない、その本人だと言うのに。当事者ではないから分からない。
案件として扱うから、書類上の物語になってしまうのだろうか。
確かにそこに、心から血を流して苦しんでいる者がいると言うのに。
不満を隠せないままにソファーへと腰を下ろす。
若弁護士はそれを待って、入れ替わりに立ち上がった。
「弁護士の杵築 透也 です」
先ほどの田崎先生と同じよう、深く頭を下げる。
「誤魔化しても仕方ないので申し上げます。弁護士歴2年目の26歳です。若輩、新米とご不満もお有りでしょうが」
ああ…、そうだ……。
加害者への怒りでつい忘れていたが、この弁護士は、何も悪くない。
寧ろ、田崎先生が渋っていた依頼を自ら受けると申し出てくれた。
俺は、自分が事業を始めた当初のことを思い出す。
若いから、経験がないからと足元を見られ、随分と苦汁を舐めさせられた。
これから、と未来を夢見る若者に、同じ思いをさせてどうしようと言うのか………
一つ深呼吸して心を落ち着かせると、彼に対して深く、頭を下げ返した。
「いえ、失礼致しました。歳を重ねるとどうしても実力よりも実績で仕事の評価をしてしまうものです。先生ほどの弁護士が認めた方だ。大船に乗ったつもりでお任せしても?」
「信頼には結果でお応えします」
杵築弁護士は表情を引き締め大きく頷いた。
頼もしい返答だと思った。
この件が納得行く形で収まれば、この若手弁護士を顧問弁護士に契約し替えても良いと思う程。
「まずは、香島様。貴方はどのような決着をお望みですか?」
「先生のご提示は?」
「最悪でも、タレントの持つSNSアカウント及びタレント、また事務所ホームページへの謝罪文の提示、FAX等で各テレビ局へ謝罪文を送付。
それに加え、店側に営業を妨害した旨の予想しえる利益の保証に、被害者への慰謝料。
加害者のタレント活動縮小。
加害者の───社会的抹消」
「…………。なるほど。詳しいお話を伺えますか?」
杵築弁護士は、只者ではないと、気付いた。
そうして俺は夕刻、紹介された探偵事務所を訪ねていた。
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