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甘えん坊

父さん一人で構わないと言うからその男について知っていることを説明して、母さんと2人、もう一度エレベーターに乗り込んだ。 最上階の家へ荷物を置いて着替えも済ませて、暫くしてから、リュートさんに届ける段ボール箱を抱えて階段で3階まで下りた。 途中そっと5階を覗いてみたら、父さんとあの男は姿を消していた。 ホッと胸を撫で下ろして、3階の階段扉の前で夏木に電話する。 直ぐに夏木が出てきて、ドアを開けてくれた。 夏木は少し驚いた顔をして、だけど俺達が入るとすぐ鍵を締めた。 「夏木功太です。えっと、広川の…」 「はじめまして、夏木君。皐月の母です。この子甘えん坊だから、悠さんが居ない時にご迷惑をお掛けしたりしていないかしら?」 母さん、なに言ってんだよ、恥ずかしい。 夏木相手に甘えん坊とか言わないで欲しいよ、もう。 「あ、いえ、俺…僕の方こそ、広川…君には良くしてもらってます」 戸惑いながら挨拶をする夏木にダンボールを押し付ける。 「後ねっ、これ母さんからリュートさんに。重いよ」 「おっ…と。どうもありがとうございます。こっちです。どうぞ」 玄関から入れてもらって、部屋を通ってローズに渡る。 「広川、ビックリすると思うぜ」 夏木が振り返って、悪戯っ子みたいに笑った。

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