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欲求不満
奏太くんとリュートさんは超カワだけど、でも悠さんにだけは俺のことが一番可愛いって思って欲しい。
「悠さん!」
振り返って、手を引っ張った。
「悠さん、座って」
一番端の席まで連れてって、悠さんをカウンターチェアに座らせる。
それから、
「ん、だっこ」
両手を差し出して、だっこをせがんだ。
少しでも可愛く見えるように、あざとく小首を傾げてみせたりして。
こういうポーズは女からは嫌われるけど男からは可愛く見えるんだって、お昼を一緒した時に女性の先輩たちが言ってた。
彼氏にやったらメロメロだったって。
なのに、悠さんは……
「皐月…」
困った顔して、誤魔化すように頭を撫でてくる。
ほらまた、俺の親がいるとこういう事するの渋っちゃう。
でも、さっきリュートさんと奏太くんがぎゅーってされてるの見てから、俺はずっと欲求不満なんです!
「だって悠さん、今11人いるだろ?そしたら椅子、1コ足りないじゃん。俺がここに座ったら、皆座れていいなぁって思わない?」
手を伸ばしたままじっと見つめて訴えると、悠さんは額に手をやって、そのまま前髪をかき上げて、
……はぁ───、と大きく息を吐きだした。
「…皐月が可愛すぎて、顔が締まらない」
覗き込めば口元が緩んでるから、ホントににやけちゃってるんだ…ってのは分かるんだけど……。
「だったら抱っこしろよーっ」
「部屋に帰ったらな」
もうっ、なんでしてくんないんだよ!
「皐月、我儘言って悠のこと困らせんなよ」
父さんが、リュートさんが入れてくれたカミュ・ナポレオンを飲みながらニヤニヤ見てくる。
普段は飲めない高いお酒、ここぞとばかりに飲みやがって。
……てか、父さんお酒飲んだら車の運転できないじゃん!まさか、帰らないつもりか!?
「悠も、甘やかさなくていいからな。まだこっちにも席余ってんじゃねぇか。仕方ねぇから俺が座ってやるよ」
そう言うと、グラスを持ちながらフラフラ~っと………
「って、ばか!そこは俺と悠さんの専用席なの!リュートさんも座ったことないんだからな!」
走り寄って、慌ててそこから引き剥がす。
「ほらっ、見てわかんないの!?予約席、って書いてあるだろ。ずーっと、俺と悠さんが予約してんの!魚観ながらここで飲むのが楽しみなの!」
「あっ、魚!」
突然声を上げた奏太くんが、走り寄ってきて俺の手を握った。
「リュートさんとね、後で一緒に魚観ようって約束したんだ。皐月くんも一緒に観よ!」
「あ、…うん、観よう!」
イジワル親父に対して怒ってたはずなのに、奏太くんの顔を見るとなんだかほわ~んとしちゃって。
なんだろ、この癒し効果。
「おじさんも一緒に観る?」
首を傾げて見上げる奏太くんに、
「あー、おじさんはどうしよっかなぁ?」
なんだかニヤけてるオヤジ。
「父さん、キモイ…」
「お前もこんぐらい可愛ければな」
はぁ、とわざとらしく溜息を吐かれた。
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