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約束の水曜日
就業時刻を過ぎた社の出口。
「今日が約束の水曜日だが、……夏木が居ないってことは、またキャンセルか?」
諦め半分な佐竹さんの言葉に罪悪感を覚える。
何度も誘ってくれてるのに、いつも断ってばかりで。
今日なんか1週間前から約束して、きっと仕事もそれに合わせて終わらせてくれただろうに。
「うー……んと…」
何かいい方法はないだろうか、と頭を悩ませていると、ポケットの中でスマホが震え出した。
すみません、と断ってディスプレイを確認する。
悠さんからの電話だ。
───そうだ!
良いことを思いついた。
廊下の端に寄って着信をタップする。
「悠さん、お疲れ様です」
『ああ、お疲れ、皐月』
耳元に響く声に、はふぅ…ってなる。
嬉しい、しあわせ、いい声、好き。
色んなプラスの気持ちが混ざり合って、それが「はふぅ…」って言うか。
『今平気?仕事は終わったか?』
「はい。悠さんは?」
『俺も今日は早く片付いたから、外で何か調達してからローズに行こうと思ってな。皐月もドライブがてら、丸の内でも行ってみるか?』
悠さんとドライブ!
…また、やらしく太ももとか触られちゃったりするかもだけど、ドライブか……、いいなぁ…。
ついニマニマしてしまって、その様子をじっと見つめられていることに気付き慌てて咳払い、スッと真顔に戻した。
「あ、あのね、悠さん」
それから俺は、悠さんに佐竹さんのことを、何度も誘ってもらっていること、先週約束した事、夏木も一緒にって言ったのに夏木を呼び出せなくて困っていることを伝えた。
『なんだ。それなら…』
悠さんは何でもないような声を出し、そして小さく笑うようにフッと息を吐きだす。
『皐月、先輩と一緒に下で待っておいで。迎えに行くから』
「ひゃぅ…っ」
また!やたらといい声で囁いたりするから、また俺、電話口で変な声あげちゃったじゃん~~っ!
「悠さん!俺スマホ耳に当ててんだからな!それが電話なんだからな!」
文句を言うと悠さんは、またも声を低くして、
『愛してるよ、皐月』
と甘く囁いた。
もぉっ!遊ばれてるんだってわかってるのに、頭から湯気が立ち上る~~~っ!!
「………お、俺も…」
聞こえるか聞こえないかの音量でボソッと伝えて、掌で熱い顔をパタパタと扇ぐ。
絶対、佐竹さんに、何やってんだアイツって思われてる……。
でも、悠さんが申し出てくれたことにホッと一安心する。
俺も、悠さんに同席してもらえないかな、って思ってたから。
以心伝心って言うの?こういうのって。
えへへ…、なんか嬉しい。
『じゃあ皐月、後でな。チュッ』
「っ……だからっ、そう言うことすんなーっ!!」
不意打ちのリップ音に声を荒げると、文句の途中でプツ、と通話が途切れた。
あの人、性質悪い……。
俺のこと、玩んでる。
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