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『可愛い』はお断り
お弁当とプティフールの詰め合わせを5人前持って、ローズへ帰った。
佐竹さん、甘いものは食べないって言ってたけど、…だ、だいじょうぶ!俺が代わりに食べてあげるから!
別に、いっぱい食べられてラッキー~♪ なんて思って喜んでないぞ、うん。
残ったら勿体ないからだもん。なんならリュートさんと半分こしてもいいし!
子供っぽくない。これは、所謂人助け!
やっぱり食べたいって思った時、4人分しか無かったら食べられなくて可哀想だし。
流石に、佐竹さんを連れて住居側玄関から、って訳にはいかないから、表の階段を上って、夏木に鍵を開けてもらった。
「お疲れ様です」
佐竹さんに会釈をした夏木は、直後俺に視線を向けて、「お帰り」と言いつつ、額に手を当て溜息を吐いた。
……? なんか態度悪いぞ、夏木。
悠さんは階段の施錠を済ませると、ドアの前で待っていた俺の腰を抱いて店内へエスコートしてくれる。
「いらっしゃいませ」
佐竹さんにそう声を掛けたリュートさんは、久し振りにバーテンの衣装に身を包んでいた。
バーテン姿のリュートさんは、普段よりももっと色っぽく見える。
その証拠に、夏木のやつは超メロってリュートさんにハートマーク飛ばしてるし、佐竹さんもリュートさんの綺麗さに声も出ない様子。
えへへっ、なんだか鼻が高い!
リュートさん、俺の自慢のお兄さんだもん。
「おかえり、皐月くん」
「リュートさん、ただいま~」
綺麗で可愛い笑みをくれるリュートさんに、俺も笑顔で応える。
リュートさんは悠さんに目を向けると、キリッとした表情を作って、
「おはようございます、オーナー」
いつもと異なる挨拶をした。
悠さんも、「ああ、おはよう」なんて軽く手を上げて応える。
何か意味があるのかな?
「佐竹さん。改めて、俺の旦那さんの悠さんと、こちら夏木の奥さんのリュートさんです」
手で指し示して2人を紹介。
「はじめまして、このバーのマスターをしておりますリュートと申します。いつも功太と皐月がお世話になっているようで、ありがとうございます」
わっ、初めてリュートさんに呼び捨てされちゃった!
リュートさんがにこっと微笑むと、佐竹さんは慌てたように深く深く頭を下げた。
「あっ、自分、佐竹博己と言います!夏木とは課が異なりますがっ、同じ営業部の人間です!」
悠さんの時も多分、緊張はしてたかな。
でも、これは種類の違うやつだ。
佐竹さん、リュートさんの綺麗さに力加減分からなくなっちゃってる。
それ、挨拶どころじゃない、最敬礼の深さだもん。
「失礼ですが、佐竹さんもゲイの方…ですか?」
「えっ?いえ、自分は、女性が好きであります!」
それにしても言葉遣いがおかしい。軍隊の人みたいだ。
「失礼しました。ここがゲイバーなも──」
「しかし、こんなに美しい方は初めて拝見しました!」
「──ので…、え…、あ、いえ、ありがとうございます」
リュートさんの言葉を聞き終える前に、佐竹さんが言葉を重ねて斬り込んでいく。
リュートさんもその勢いにちょっと戸惑っちゃってる。
………って!
「佐竹さん、確かにリュートさんはちょーっキレかわで見惚れちゃうのは仕方ないですけど、夏木の奥さんなんですからね!」
目がハートになってるような気がして、ちょっと強めに訴える。
「………はっ!いや、わかってる!広川だって負けないぐらい可愛いぞ!うん」
「いやっ、意味わかんないし!」
なんでフォローされてんだ、俺。
「俺は悠さんとリュートさんに可愛いって言ってもらえれば他は別に良いんで、お気遣い無く」
「いや、悪い、ホントに可愛い。うん」
だからいらねーよ、他の人からの「可愛い」なんて。
カッコイイ、なら喜んで貰うけどさ。
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