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腹黒い?
カウンターに並んでご飯を食べる。
俺を食事に誘ってくれた筈の佐竹さんは、何故か悠さんと夏木に挟まれて真ん中の席に座っていた。
俺とリュートさんはそれぞれの旦那様の隣。
てか、…うぅむ……。旦那さんとか旦那様って言ったり思ったりする度、未だになんだかこそばゆい気持ちになるな…。
嬉しいって言うか、それでいて何処か恥ずかしい。でも、すっごくしあわせって言うか。
リュートさんに飲み物を訊かれて、いつものようにお酒を飲んでもいいかと訊ねると、悠さんは珍しく、
「5杯までなら構わないよ」
と答えてくれた。
4人の時でも4杯までって言われることが多いのに、平日の、しかも会社の先輩が来てるのに5杯も飲んでいいなんて、悠さん今日は機嫌いい?
そんなことを思いながら、「ありがとう!」と一杯目のカクテルを頼むと、
「流石兄さん、腹黒い」
リュートさんが小さな声でそう言って、くすりと笑みを零した。
「え?リュートさん、どういう事?」
訊けば、何故だか頭を撫でられる。
「皐月くんは分からなくていいんだよ」
「どうして?」
「それが、皐月くんの良いトコロだから」
よく分からないけど、…褒められたのかな?
俺に「どうぞ、パシフィックカクテルだよ」ってライチとグレープフルーツのカクテルを出してくれたリュートさんは、夏木には何も訊かずにビールのグラスを渡した。
夏木曰く、ビールは何の食事にも合う万能なアルコール、らしい。
悠さんは珍しく純米大吟醸酒なんてオトナなものを飲んでいる。
佐竹さんは、夏木とおんなじグラスビールだ。
営業の人って、ビールから入る人が多いのかな?
営業部、飲みが多いって聞くし、会社の飲み会って大概、1杯目はビールからだもんな。
佐々木課長もやっぱりビール?でもあの人、ビールって言うよりワインやシャンパンの方が似合いそう…。
「───あっ!そういえば夏木、俺 佐々木課長から伝言預かってたの忘れてた」
ふと思い出して、3つ先の席の夏木の顔を探す。
「ん?何を?」
夏木と、それからリュートさんも気になるようで、こちらに顔を傾けた。
「あのね、会社辞めるなら早めに言え、だって。夏木、会社辞めんの?」
「えっ、そうなのか?お前若手のエースだろ?」
「えっ、功太エースなの?…格好いい」
佐竹さんの言葉に反応したリュートさんが、夏木に熱い視線を送る。
恋は盲目だな、なんて失礼なことを思いつつ、
俺はといえば、また夏木と言う存在を軽んじていた事実に気付かされている。
いや、ほんと……夏木、ごめんな。
「いや……えー…マジで?課長、そんな事言ってた?」
「うん。先週の、木曜かな?またうちの課に邪魔しに来た時言われたんだ。
つかさー、あの人、うちの高山課長構い過ぎじゃない?すげー邪魔なんだけど。課長、佐々木課長が帰るたび胃薬飲んでて、超可哀想なんだよ」
「あー…、うちの課長美人好きだから。高山課長、お気に入りなんだよ」
「美人って…、確かに綺麗な顔してっかもだけど、高山課長も男だろ?」
と、佐竹さん。
「なら、幾ら可愛い顔してても、広川だって男ですよ」
と、夏木。
……………
「って、おい!」
ツッコミ待ちか?ツッコミ待ちなのか!?
「夏木!別に俺は可愛くないし、悠さんとリュートさん以外の男から可愛いって言われても嬉しくないんだってば!」
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