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デキる奥さん
食べ終わった弁当の蓋を閉じて、夏木がビールを飲み干した。
すかさずリュートさんが立ち上がって、夏木にお替わりを訊く。
流石リュートさん。甲斐甲斐しい奥さんって感じだ。
俺も見習って、悠さんのグラスの残量を確認する。
「悠さん、悠さんもお替わりもらいますか?」
「ああ、そうだな。リュート、俺にもカミュ。それと皐月にグリーンティーリキュールで何か作ってやって」
「はい、オーナー」
まだ、オーナーとマスターごっこは続いてるみたいだ。
リュートさんは悠さんにブランデーのグラスを差し出すと、シェイカーに緑のお酒を……1オンス。
グリーンティーリキュールって、やっぱり緑茶のお酒かな?
夏木はワイルドターキーってやつをロックで飲んでる。
確か、バーボンウイスキーだっけ。…なんか、オヤジ臭い。
佐竹さんも一緒に同じの飲んでるけど、「…うん、俺これじゃねーや」って聞こえてきた。
ウィスキーって人を選ぶよね。
「はい、皐月くん、お待たせ。和食膳に合うようにサッパリテイストで作ってみたけど、どうかな?」
薄い緑色のカクテルグラスが目の前に差し出された。
いただきますと断って、一口含む。
「…あ、おいし」
さっぱりしてるけど、辛くはない。ちょっとだけ甘い。
これは、レモンジュースの味かな?
「よかった」
にこりと微笑むリュートさんに、「ありがとう」って伝える。
するともっと深く、その甘さに溶かされちゃうくらいに優しく笑って、リュートさんは夏木の隣に戻っていった。
お弁当に合わせて、リュートさんが作ってくれたお吸い物に口をつける。
上品で優しい美味しさ。
綺麗で可愛くて優しくて、仕事も出来て料理も上手いなんて、リュートさん奥さんとして完璧じゃないか?
夏木のやつ、ほんと良い人掴まえたよなぁ。羨ましいって言うか。
………いや、違うし!羨ましくないし!
俺が羨ましがるのそこじゃなくて、リュートさんのデキる嫁っぷりにじゃなきゃだもんな。
悠さんが皆から「デキる奥さんで羨ましい」って言ってもらえるような、良いパートナーにならないと!!
「皐月、ありがとな」
唐突に、頭をぽんぽん、って撫でられて首を傾げると、
「俺のグラスが空きそうなこと、気付いてくれただろう?」
甘い瞳が覗き込んできて、頬をするりと撫でられる。
「うっ、ううんっ!リュートさんが夏木のお替わりに立ったから、俺もと思ってっ」
だから気が利く奴って訳でもなくて、……ごめん。
そう伝えると、悠さんは食後の口をナプキンで拭ってから、俺の頬に唇を落とした。
「食事中なのに、ありがとな」
悠さんこそ、俺のお替わりにまで気を遣ってくれたくせに。
「…俺、甘やかされてるよね?」
スーツの裾をツイと引くと、悠さんは俺の耳元に口を近付けた。
「お前を甘やかすのは俺だけの特権だと言っただろう?だから皐月は、大人しく俺に甘やされていなさい」
ナイショ話をするみたいな、低くて甘い囁き声。
まだ食事中だと言うのに、俺は身体にぞくりと熱が帯びるのを止めることができなかった。
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