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痛い浮気
「あっ、そう言えば」
何か思い出したようにそう言いながらリュートさんが、飲む?と瓶を渡してくれるから有り難く受け取る。
栓を抜こうとしたけど力が入らなくて、すぐに気付いた悠さんが代わりに開けてくれた。
飲ませてやろうか?なんて、優しい眼差しの中にちょっとの色気を含んで訊いてくるから、慌てて首を横に振る。
なんだか、口移しの予感がする!!
リュートさんは夏木の隣に腰を下ろすと、甘えるように肩に頬をすり寄せた。
「功太ぁ、聞いて。さっきね、皐月くんにキスしていいか訊いたら断られちゃったんだ。悲しい…」
「ちょっとリュートさんっ、広川になんてことしようとして───いてっ!…だからー、叩くなら俺じゃないでしょーがっ!」
また夏木は悠さんに叩かれたらしい。
「直にリュートをやったら俺が皐月に怒られるだろうが」
「何それ!?理不尽!!」
理不尽だけど一理ある。…なんて、俺が言うコトじゃないか。
「んー…、でも、悠さんが夏木叩くのって、なんだか愛情表現の一種って言うか……、ん?それって浮気?」
「こんな一方的に痛い浮気なんて嫌だよ!!」
「功太、浮気?」
「リュートさんに言われたくないし!」
夏木が全力で返して、リュートさんにくすくす笑われる。
あー…、そう言えば、夏木ってこういう奴だったかも。
最近ちょっと大人ぶってる所為で忘れかけてた。
入社前研修で仲良くなったんだけど、体育会系の熱い奴って言うか、いつも全力投球でさ。
『っ…広川っ、メシ、隣で食おうぜ!』
全力で誘ってくれた夏木に、当たり前に知り合いの居なかった俺はホッとして。
思えば夏木との付き合いはあれからだなぁ。
本社勤務が俺と夏木の2人って聞いた時、なんだか嬉しいっていうか、安心したって言うか。
夏木と一緒でよかったな……って、所属を初めて聞いた入社式の席で、俺は小さく笑みを零したんだった。
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