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熱いモテ男

入社前研修の始まりは、保養所での研修旅行。 自己紹介からはじまり、電話の応対、名刺を持っての挨拶等、社会人として当たり前に出来なくてはいけないマナーを学んでいった。 初日の昼は、並んで座った席のまま弁当を配られて、 そして夜、畳の部屋で自由な席に座るよう促された。 まだ仲良くなった人も居ないし、隣の席だった人とちょっと喋ったくらい。 何処に座ろうかとキョロキョロしていた時、 『っ…広川っ、メシ、隣で食おうぜ!』 ちょっと緊張した面持ちの同期に、突然声を掛けられた。 1人挟んで右側に座ってた夏木だった。 『うん!』 嬉しくて、即答で了承した。 『じゃあ夏木は、俺の社内友達1号な!よろしく』 自然と笑いがこみ上げる。 誰とも仲良くなれなかったら淋しいなって思ってたから。 でも俺はなかなか自分からは行けなくて、誰かが誘ってくれないかな、なんて。 『ああ、よろしく。社内親友になれるよう頑張ります!』 夏木はそんな根性無しの俺に、手を出して握手を求めてくれた。 手を握り返して、頭をペコリと下げる。 『頑張ってください。俺も頑張ります!そこそこ』 『なんだよー、広川も全力で頑張れよー』 全力で反応を返してくれる夏木が可笑しい。 『俺はそこそこでだいじょーぶなの。だって、夏木が頑張ってくれるんだろ?俺まで頑張りまくったら、親友通り越して恋人になっちゃうじゃん』 ふふっと笑うと、 『夏木功太、恋人にはどうですか?』 やたらと真剣な表情でフザケてくる。 『俺より背が高くてごっつい彼女は要らないです』 『あっ、夏木くんフラレた!』 いつの間にか、俺達は注目を集めていたらしい。 女の子がニヤニヤしながら覗き込んでくる。 『かわいそー。なんでダメなの?夏木君、同期のエースじゃない』 『エース?』 『そうそう、ルックスエースね』 同期一、顔がいいってことか? 俺だって、そう変わんないと思うんだけどなぁ。 身長は大体おんなじぐらい。 あ、でもトイレで手洗う時一緒になったけど、鏡に映った俺の顔は夏木の顔より小さかった。 頭身高い、これってイケメンっぽくない? 女の子たちからは、 睫毛長くてムカツク、とか、 なんでグロスも塗らないでそんな艶プルリップなの、腹立たしい!とか、 はぁん?こっちは目がデカくなるコンタクトまで入れてんのよ、ナニその素のキラキラ目は! でも警戒心無く付き合えるんだよね、さっちん、 とかって、よく悪口のような褒め方されてる。 すなわち!俺にもモテ要素、あると思うんだけどなぁ。 『まあ、お付き合い断ったなら広川君はフリーでしょ。こっちおいでよ』 『えっ、俺女子の中に1人入っていいの?ハーレムワッショイ?』 あっ、ほらほら、やっと来た!俺にもモテ期!! そう思って、ウキウキワクワクでついていこうとしたのに…… 『いや、男子の中入れたら狼の群れに羊状態になりそうだから、皆で守ってあげる』 『なんでだよ!!』 結局俺は夏木と一緒に女子の群れに突っ込まれ、モテモテの夏木をいいなぁって眺めながら、髪を結ばれたりリボンやピンを付けられたり。 夏木は「夏木ク~ン♡」なのに、俺は気付いたら「ひろリン」「さっちゃん」だしさ。そのうち、ひろリンから二文字取って「リンリン」……って、それ俺の名前一文字も残ってないからな! そんな訳で、まったくモテてない俺まで 残る男子たちからはジト目で見られ、同性同期たちと打ち解けるまでもう暫くの時間を有することになったのだった。

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