232 / 298

初めてのお泊り

ひゃっふ~!お泊りだあ! 俺のお願いに折れてくれた悠さんは、まず深~く溜息を吐いて、それからリュートさんに先にお風呂に入ってくるよう命じた。 「俺は今から2人分の着替えを取ってくる」 「じゃあ皐月くん、一緒にお風呂入ろ」 いってらっしゃい、と悠さんに手を振るご機嫌なリュートさんに誘われて、「うん!」と頷こうとすれば、 「リュートは1人で入れ。皐月は後で俺と一緒だ」 悠さんはリュートさんにビシッと指を突きつけた。 「それから夏木はカードキーを持って階段前で待機。皐月はダイニングチェアに座って待っていなさい」 悠さんにも何か考えがあるんだろう、と、ベッドの方が楽なんだけど、素直に従って4人掛けのダイニングテーブルに移動した。 リュートさんも苦笑しながら着替えの用意をしてバスルームに消えていく。 リュートさんの家は、上のマンションの部屋とはちょっと造りが違ってる。 うちの間取りは2LDKにトイレ、バスルーム、脱衣室、洗面所、ランドリールーム、ウォークインクローゼット、ルーフバルコニーが付いてる贅沢仕様で各階に2室。 3階は店舗と住居の二段構えで、更に水槽がでで~んと構えているから、住居側はうちよりもちょっと狭い。 その他の造りは同じだけど、リュートさんの家はひろ~いワンルーム。 「こんにちは」って玄関から一歩入ればキッチンスペースからベッドまで、生活スペースがぜーんぶ見えちゃう。 さっきみたいにベッドの上で触りあいっこしてたら、店側から入っても玄関から入っても、パーテーションを越えれば一瞬で丸見えって作りだ。 だから、夏木と一緒に退社して、俺がカウンター席、夏木が部屋に戻ってリュートさんがそれを追いかけて行った…なんて時は、まさか何が行われてるわけではないと思うけど、後から「おじゃまします」なんてしない事にしてる。 万が一何かしてたら、気まずいからな…。 ちなみにベッドは、うちのクイーンサイズよりも大きいキングサイズ。 4人で寝たら流石に狭そうだけど、いつも悠さんの腕枕で寝てるからあんまり幅使わないし、どうせ夏木とリュートさんもくっついて寝てるんだろう。 全く問題ない気がする。 急に1人で暇になったから、スマホをいじりながら足をバタバタさせて待つ。 悠さんと夏木はすぐに戻ってきて、リュートさんもそう長く浸からずに出てきてくれた。 リュートさん、髪を下ろした姿も綺麗で可愛い。結い上げて露わになったうなじも色っぽくて、ちょっとドキドキ。 夏木が2番目、そして俺はその後、約束通り悠さんと一緒にお風呂へと向かった。 お互い自分で体を洗って、短めに湯船に浸かってお風呂から出ると、リュートさんが俺たちの姿を見比べて、「えっ?」と小さく声を漏らした。 「……もしかして、お揃いのパジャマ、変?」 「あ、ううん、変じゃないよ」 リュートさんは首を振って、だけどやっぱり俺たちのことを不思議そうな目で見て首を傾げる。 「兄さん、何もしてないの?」 「ん?…ああ」 リュートさんの謎の言葉に悠さんが頷いて見せる。 「2人でお風呂に入ったのに?」 「リュートさん、やめなさい。誰もがリュートさんみたいに年中サカってるわけじゃないから」 「別にサカってはいないよ?」 夏木の言葉に、不満げに口を尖らせるリュートさん。 ………うん、流石にね、今の会話からリュートさんの疑問が読み取れた。 この人たちは2人でお風呂に入ったら、毎回そう言うことになっちゃうんだ、きっと…。 しかも、夏木主体じゃなくて、リュートさんの方から行ってるっぽい。 「……リュートさんって、意外とえっち?」 小さな声で訊ねると、 「全然意外じゃねーって、この人」 夏木が、聞いてくださる!奥さん?バリに食い付いてきた。 「い、いや…、大丈夫、話さないで」 手で続きを押しとどめると、夏木は不服そうにベッドにひっくり返った。

ともだちにシェアしよう!