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初めてのお泊り
ひゃっふ~!お泊りだあ!
俺のお願いに折れてくれた悠さんは、まず深~く溜息を吐いて、それからリュートさんに先にお風呂に入ってくるよう命じた。
「俺は今から2人分の着替えを取ってくる」
「じゃあ皐月くん、一緒にお風呂入ろ」
いってらっしゃい、と悠さんに手を振るご機嫌なリュートさんに誘われて、「うん!」と頷こうとすれば、
「リュートは1人で入れ。皐月は後で俺と一緒だ」
悠さんはリュートさんにビシッと指を突きつけた。
「それから夏木はカードキーを持って階段前で待機。皐月はダイニングチェアに座って待っていなさい」
悠さんにも何か考えがあるんだろう、と、ベッドの方が楽なんだけど、素直に従って4人掛けのダイニングテーブルに移動した。
リュートさんも苦笑しながら着替えの用意をしてバスルームに消えていく。
リュートさんの家は、上のマンションの部屋とはちょっと造りが違ってる。
うちの間取りは2LDKにトイレ、バスルーム、脱衣室、洗面所、ランドリールーム、ウォークインクローゼット、ルーフバルコニーが付いてる贅沢仕様で各階に2室。
3階は店舗と住居の二段構えで、更に水槽がでで~んと構えているから、住居側はうちよりもちょっと狭い。
その他の造りは同じだけど、リュートさんの家はひろ~いワンルーム。
「こんにちは」って玄関から一歩入ればキッチンスペースからベッドまで、生活スペースがぜーんぶ見えちゃう。
さっきみたいにベッドの上で触りあいっこしてたら、店側から入っても玄関から入っても、パーテーションを越えれば一瞬で丸見えって作りだ。
だから、夏木と一緒に退社して、俺がカウンター席、夏木が部屋に戻ってリュートさんがそれを追いかけて行った…なんて時は、まさか何が行われてるわけではないと思うけど、後から「おじゃまします」なんてしない事にしてる。
万が一何かしてたら、気まずいからな…。
ちなみにベッドは、うちのクイーンサイズよりも大きいキングサイズ。
4人で寝たら流石に狭そうだけど、いつも悠さんの腕枕で寝てるからあんまり幅使わないし、どうせ夏木とリュートさんもくっついて寝てるんだろう。
全く問題ない気がする。
急に1人で暇になったから、スマホをいじりながら足をバタバタさせて待つ。
悠さんと夏木はすぐに戻ってきて、リュートさんもそう長く浸からずに出てきてくれた。
リュートさん、髪を下ろした姿も綺麗で可愛い。結い上げて露わになったうなじも色っぽくて、ちょっとドキドキ。
夏木が2番目、そして俺はその後、約束通り悠さんと一緒にお風呂へと向かった。
お互い自分で体を洗って、短めに湯船に浸かってお風呂から出ると、リュートさんが俺たちの姿を見比べて、「えっ?」と小さく声を漏らした。
「……もしかして、お揃いのパジャマ、変?」
「あ、ううん、変じゃないよ」
リュートさんは首を振って、だけどやっぱり俺たちのことを不思議そうな目で見て首を傾げる。
「兄さん、何もしてないの?」
「ん?…ああ」
リュートさんの謎の言葉に悠さんが頷いて見せる。
「2人でお風呂に入ったのに?」
「リュートさん、やめなさい。誰もがリュートさんみたいに年中サカってるわけじゃないから」
「別にサカってはいないよ?」
夏木の言葉に、不満げに口を尖らせるリュートさん。
………うん、流石にね、今の会話からリュートさんの疑問が読み取れた。
この人たちは2人でお風呂に入ったら、毎回そう言うことになっちゃうんだ、きっと…。
しかも、夏木主体じゃなくて、リュートさんの方から行ってるっぽい。
「……リュートさんって、意外とえっち?」
小さな声で訊ねると、
「全然意外じゃねーって、この人」
夏木が、聞いてくださる!奥さん?バリに食い付いてきた。
「い、いや…、大丈夫、話さないで」
手で続きを押しとどめると、夏木は不服そうにベッドにひっくり返った。
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