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腹筋運動
退社後 丸の内に買い物に出て、飲みながら食事を取って、お風呂にも入って、もう随分遅い時間だろうと踏んでいたのだけれど、時計を見ればまだ針は10時過ぎを示していた。
酔いも程よく覚め、暖房の効いた暖かい部屋の中まったりと眠たくなってくる。
だけど、折角のお泊りなのに寝落ちなんて勿体無さ過ぎる!!
絶対に眠らないようほっぺたをぎゅーっと両側から引っ張っていると、その手をやんわりと撫でられ力が抜けたところを頬から離された。
「こら、皐月。折角の可愛い頬が腫れてしまうだろう」
ちょっとだけヒリヒリしてる頬を、大きな掌が優しく擦る。
「痛くないか?」
「……はい」
「俺の可愛い皐月の体をむやみに傷つけないように」
「はい…」
自分で抓っただけなのに……、子ども扱い、なんだか恥ずかしい。
「何やってんだよ、広川」
夏木にも苦笑された。
「だってさ、寝たら勿体ないから起きてなきゃって」
「じゃあ、眠気覚まし、酔い覚ましにビールでも飲むか?」
「や、ビールもお酒だから!」
営業の人間って一体……。
「いや、水みたいなもんだろ」
「夏木、お前そんなこと思ってビール飲み続けてたら、30過ぎたらビールっ腹必至だからな。いい加減リュートさんにだって愛想尽かされるからな」
大体お前が出してくれるビール、ビールじゃなくて発泡酒じゃん、と続けようと口を開けば、
「大丈夫っ!ビールっ腹でも好きだからね、功太!」
リュートさんが必死な様子で夏木に縋り付く。
「いや、嬉しいけど、今現在ビールっ腹じゃない…し……、ないよな…?」
どんどん不安そうな声に変わり、トレーナーの裾を捲ってお腹を確認する夏木。
6つまでとはいかないけれど、やっぱり元野球少年、お腹は綺麗に割れて締まってる。
でも、ああいう『元スポーツマン』って人ほど、中年になって、とか、スポーツ引退して、ってなった時、いよいよ危険なんだよな。
そう言う俺は………、
ぺらりと捲ってお腹を確認。
腹筋……ある。あるっちゃあある。
薄いけど………。
悠さんは30過ぎて──もう30も半ばだって言うのに、しっかりとした身体つきをしてる。
元ラガーマンの佐竹さんがゴリマッチョなら、悠さんは長身細マッチョ。ん~、マッチョまではいかないかな?
でも、俺のこと抱っこしてくれる時には腕や肩の筋肉がモリってするし、腹筋を使う時…には、お腹もボコボコって……
あっ、違う!別にエッチなことなんて想像してないから!
他にも裸で腹筋使うことあるから!………多分。
「ん~~?」
腹筋すれば、俺ももっとしっかりした2人みたいなお腹になるかな?
目指せ、シックスパック!
頭の後ろに手をやって、ベッドに寝転ぶ。
ぐぐーっとお腹に力を入れて、1回…ひねり、2回…逆ひねり、3回…ひね……ろうとしたところを押さえられた。
「皐月?何を始めたんだ、お前は」
「腹筋です!」
「広川、腹筋運動なら腕は胸の前にクロスでゆっくりやった方がいいぞ。勢いで起き上がると腹筋に効かないから」
突然話に参加して、親切に教えてくれる夏木はまるで体育の先生みたい。
営業職でなかったら、中高の体育教師でも良かったかもな。
可愛い男子高生相手についニヤニヤして、リュートさんに焼かれちゃいそうだけど。
「慣れてきたら太ももから下を20度くらい上げて…」
「ふむふむ」
「……まだ相当酔ってるな、皐月。腹筋講座は明日にして、ほら」
折角夏木先生が体育会系の腹筋を教えてくれようとしているのに、悠さんにうつ伏せにされて顔を膝に抱きかかえられる。
…あったかい。いい匂い………、はっ!!
「だめーっ!放してっ、悠さん、俺寝ちゃうからぁっ」
「いいよ、眠かったら眠って」
「やだやだっ、俺12時までは起きてますっ」
「分かったよ。なら、起き上がるか?」
溜息混じりに笑った悠さんに「はい」と答えれば、脇を持って持ち上げて、胡坐の上に後ろから抱きかかえるように座らせてくれた。
「功太、あれ、僕も」
キラキラした瞳のリュートさんに強請られると、だらしのない顔で了承して夏木もリュートさんを胡坐をかいて上に乗せる。
酔ってるリュートさんは、普段の2割増しで可愛い。
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