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ローズでしょ

「で、やっぱり広川は会社、続けるのか?」 夏木からの問いかけに、悠さんの胸に抱き付いたまま振り返る。 「だからー、辞める予定なんてないってば。なんで夏木が辞めるからって俺も辞めなきゃいけないんだよ。また変な噂立てられるじゃん」 「変な噂?」 反応したのは、悠さんとリュートさんだ。 「そうだよ。俺と夏木がデキてんじゃないかって、俺、何人にも言われたもん。夏木はただの友達だって言ってんのにさ」 「へぇ、社内でそんなに仲良くしてるんだ?」 「ヒッ…いや、してないですっ!」 リュートさんの声が一瞬冷たく聞こえたのは気のせい…ってことにしておこう。夏木が即行全力で否定したし、大丈夫。 「大体、俺ってクッションが無かったら、高山課長の胃が更に崩壊に近付いちゃうじゃん」 自分の課の上司と夏木の所の佐々木課長のことを上げると、夏木は納得したように頷いて苦笑した。 「あー…、なぁ。でもあれもなぁ、愛情表現ってーか」 「愛情?邪魔しに来てるんじゃなくて?」 「いや、佐々木課長に俺がゲイってのもバレてたんだけどさ、あの人多分、バイだろ?」 「えっ、そーなの!?」 夏木の意外な言葉に、思わず身を乗り出す。 バイって、男も女もどっちも好きってことだよな。 じゃあ佐々木課長、男も恋愛的に好きってこと? そう言う意味でうちの課長のこと気に入ってるってこと? あ、でもある意味バイって、性別で差別をしない人類愛の人って見方も出来る。 人を公平な目で見られる……いや、あの人に限ってそれは無いな。別のところで差別してそうだ。例えば……顔、とか。 「広川のことも結構気に入ってんじゃん。触り方ヤラしいって思ったことないか?」 「無いよ。俺触られる前に逃げるもん」 「あー…、そう言や、───広川皐月は本能で危害を加える可能性のある人間とそうでない人間を見分ける能力を秘めているのだった!───だっけ」 「……なんだよ、その説明的セリフは」 なんだ、その「説明しよう!」から始まるアニメの文言みたいのは。 いやいや、と俺の文句を笑い飛ばすと、夏木は更に衝撃の事実を明らかにした。 「で、高山課長ってゲイじゃん」 ・・・・・・・・・ 「はぁあ!?」 「いや、だから、ゲイだろって」 「何を言い出した、お前……いや、だって、うちの課長だぞ!?確かに、女の人は苦手だけど」 「夏木、それは本当なのか!?」 俺が話してるってのに、悠さんがそこに割り込んでくる。 「俺のゲイセンサーに引っかかりましたから。でも、安心してください。あの人は、綺麗系ネコっす」 なんだよ、ゲイセンサーって…… 「ネコ……、功太!綺麗って、僕より!?」 「えっ、なんで!?リュートさんが一番綺麗だよ」 「功太~~っ」 当たり前のように一番と返す夏木に、リュートさんが嬉しそうにしがみつく。 ラブラブでいいですなぁ……。 俺も悠さんに───じゃなくて!! 「えっ、だって、課長そんなこと…」 「言わないだろ、普通。でも、最近鼻利くようになってきたんだよ、俺。懸命に隠してるのに、憎からず想っている相手がヘラヘラ笑ってチョッカイ出してくんだぞ?胃も壊すだろ、そりゃあ」 な……なんてこった…… 憎からず?課長も佐々木課長のこと、いいなって思ってるってこと? じゃあ俺に可愛いとか言ってくるアレだって、更にストレスになってるって事じゃんか! 「うーー、俺も辞めた方がいい?」 尊敬する高山課長のストレスになるとか、絶対嫌だし! 「でもなぁ、広川がワンクッションになってんのも事実だし」 どっちだよ!? 「でも、リュートさんと広川2人のローズも客足増えるかもしんないしな。美人で聞き上手のマスターと、懐こい可愛いバーテンだろ」 ………ん? 「なんで、退職後ローズ勤めの(てい)で語ってんだよ、夏木?」 首を傾げて訊くと、返すようにリュートさんが俺に向けて首を傾げた。 「だって、皐月くんの第二の就職先はローズでしょう?」

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