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悪い予感
リンナさんの左側には初めて見るひとり のお客さん。
俺から右側、端の二席にはスーツの2人連れ。
カップルかな?失礼になるといけないからあんまり見ないようにする。
「それで、俺を待ってたって何ですか?」
訊けば口角を持ち上げて愉しそうにニヤリと笑い、何かが入った紙袋を手渡してきた。
悪い予感、的中だ。
「エロ…変な物なら受け取らないですよっ」
周りに人もいるから、小声で文句を言って突っ返す。
「もーおっ、わかってるわよ、さっちゃん」
そう言う玩具は社長に渡すわよぉ、って、当たり前のように言わないで欲しい…。
「悠さんにも渡しちゃダメ!」
「あらぁ。じゃあリュートちゃんの分増やさないと」
「リュートさんにもダメーッ!」
「あん、もぉ、ケチね~」
リュートさんは他人事みたいにクスクス笑ってるけど、そんな事になったらまた夏木にお仕置きされちゃうって、ちゃんと分かってるんだろうか。
「でもね、今日はそういう物じゃないのよ」
重たそうな付け睫の瞼で、バチンと音の聞こえそうなウインクをされた。
「…じゃあ、なんですか?」
「開けてみて」
促されて、紙袋のテープを外す。
パリパリ、と言う音に被さって、その時、「あっ!」と驚きをあらわす声が聞こえた。
「どうされました?」
右側のお客さんだったみたいだ。
リュートさんの問い掛けに、
「いえ、連れが少し驚いてしまったようで、お騒がせしてすみません」
柔らかなバリトンの声が応じた。
大抵こういう時、こんな風に答えるのはタチの人だ。
うちのがすみませんね、って。
恋人をいっぱい甘やかして守りたい、年上の大人の男。
この人は自分の恋人だって見せ付けて、敵の侵入を防ぐという効果もある…らしい。
それから、
2人がまだ付き合ってない場合には、自分の恋人にするんだからちょっかいかけるなって言う牽制。
恋人同士なら、自慢屋さんって場合もあるかな。自分の恋人は素敵でしょう?って。
「差し支えなければ、驚かれた原因を教えて頂けますか?失礼があったのでしたら…」
「いやいや、失礼なんて。ただ、知り合いがいたものですから」
「ああ」
喰い気味の否定に、リュートさんが納得したように苦笑した。
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