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『愛』や『運命』

こういうお店にカップルで訪れている時に知り合いに会うってのは、場合に寄っては気まずいこともある。 互いにそうと知らなかった相手に会った時。 元恋人に会ってしまった時。 それから、ローズでは遠慮してもらってるけど、別の店やハッテン場と呼ばれる遊び相手を選ぶ場で知り合った一夜限りの相手と再会してしまった時。 世の中には、恋人なんて面倒臭い、体だけ満足させてくれれば、って思っている人がいるんだって。 俺には悠さんが居てくれて、悠さんと一緒にいられる幸せを知っているから、その人たちの気持ちは分からない。 悠さんと出会う前だって俺は、女の子相手にもそんな風には考えられなかった。 身体だけでいい。心は要らない…なんて。 ローズのマスター、リュートさんは世間では綺麗事って言われちゃう『愛』や『運命』を信じる人だ。 だけどずっとね、自分にはそんなものは無いんだって思ってたんだって。 ローズが愛の架け橋になりますように。 お客さんたち皆が幸せになりますように。 だけど自分にそれは訪れないから、だから結ばれていく人たちを見ていると、嬉しいと同時に少しだけ…淋しかったんだって。 今は夏木がいるから、リュートさんも100%嬉しい気持ちで、カップルになった人を見守れる、見送れるけどね。 常連さんはそれを分かってるから、シングルの人も此処をハッテン場としては使わない。 いつか出会う運命の相手との出会いの場として、とても大切に思ってくれてる。 リュートさん、本人が知らぬところで『愛の女神様』とか『ヴィーナス』って呼ばれてるもんな。 ネットの口コミサイトを見たら、リュートさんの事『マスター』って呼ぶより『ヴィーナス』って呼ぶ人の方が多くて、これは本人には見せられないなぁって。 でもすっごくほっこり、あったかい気持ちになったんだ。

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