249 / 298

モニター

「味は栄養剤系よ。炭酸が入ってて、ちょっとピリピリするかしら。それでね、……ってさっちゃん、アンタ聞いてる?」 「えっ?あ、聞いてる。炭酸栄養剤ね」 紙袋の中には小さな瓶。 栄養ドリンクサイズだけど、色はよく見る茶色じゃなくて、綺麗なブルー。ラピスラズリの色。 女の人も好きそうだなぁ、って思う。 リンナさんの会社は、当然ゲイ専用にグッズを提供している訳じゃないから、サイトも女性が嫌悪感を抱かないようなオシャレで清潔感のある作りになっている。…そうだ。俺は見た事ないけど。 パッケージも綺麗なものが多い。 パステルカラーだったり、花や蝶をデフォルメしたイラストがついてたり。 「ちょっと飲んでみて、さっちゃん」 だけど、どんなに可愛く見えても、使用用途は生々しい物が多い。当然なんだけど。 「えー…、ちょっと怖い。…これ、試作品?」 「ほぼ完成品だから大丈夫よ~。販売前モニターが欲しくって。ね、お・ね・が・いっ?」 そんなに可愛く言われても…。 渋っていると、ほっぺたをツンツン突付いてくる。 微妙な視線を向ければ、バチンバチンってウインクで急かされる。 「う…うぅ~ん…。しょうが無いなぁ」 瓶の蓋を開けると、プシュッと炭酸が空気に溶ける音。 匂いは、…うん。確かに栄養ドリンクっぽい。 「さっちゃんが飲めば、社長も喜んでくれるわよぉ」 「えっ、なんで悠さんが喜ぶの!?これ本当に大丈夫なヤツ!?」 「安心なさい、媚薬じゃないわ。そーれ、一気!一気!」 「ちょ…っ!これ、一気に飲み干さなきゃいけないんですか…?」 一気、一気と手拍子を取りながら、リンナさんはウンウンと頷く。 怖いなぁ。…けど、このままじゃ静かな店内でリンナさんの一気コールが、他のお客さんの迷惑になっちゃうし…… 「ええいっ!」 ギュッと目を瞑って、瓶の中身を一気に煽る。 「っ!?」 ってコレ、炭酸でピリピリどころか、バチバチするよ?! 大丈夫なの?ホントにコレ!? 「えっ…皐月くん!?」 シングルのお客さんと話していたリュートさんが、突然店内に響く大きな声を上げた。 リュートさんがそんな事をするなんて初めてで、…だって、リュートさんはいつも、ローズがお客さんにとって心地良い空間であるようにって………ホントに大丈夫なのか、俺!?

ともだちにシェアしよう!