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見知った2人
広川君はこっちでジュースを飲みましょうと端の席に連れて行かれた。
リュートさんがすぐにジュースのグラスを移動させてくれる。
ストローも差してくれた。
「梓ばっかりズルいな。俺には抱かせてくれないの?」
さっきの課長の連れの、声のいい人が覗き込んでくる。
───ってこの人!喋り方がいつもと違うから気付かなかったけど、佐々木課長じゃないか!!
「祥吾さんは駄目です。いつも広川君のことを可愛いと言っているような人に、こんなに小さな広川君のことは預けられません」
祥吾さん……、そう言えば佐々木課長、佐々木祥吾って名前だっけ。
あっ、そう言えば佐々木課長も高山課長のこと、梓って名前で呼んでた。
「…あずさお兄ちゃん!」
膝の上、振り返って呼びかけると、キョトンとして可愛い顔になった高山課長が、口元に手をやって震えながら顔を逸らした。
指からはみ出た肌が赤く染まってる。
俺に名前で呼ばれたの、恥ずかしかったのかな?それとも怒ってる?
「いいなぁ、梓。広川、俺のことも呼んでご覧?」
「えと…ささきかちょー?」
見上げて首を傾げると、「あー、そうじゃねぇなあ」って、いつもの口調で頭をクシャクシャ。
「やーっ、だめ!かみがぐっちゃになるでしょ!」
「はっはっはっ、可愛いな、チビッコ。お前今いくつだ?」
佐々木課長は高笑い。
そんな、俺の歳が幾つかなんて、そんなん自分だって分かって…はないのかもしれないけど。
元部下の夏木の年齢ぐらいは分かってるだろ。
それとおんなじだよ!
俺の歳は、…俺のとし…は……
「もうすぐしょうがくせいです!」
「ん?…おお、じゃあ今幼稚園か。ランドセル買ってもらったか?」
「うん!黒くてー、シルバーのがついててー、かっこいいの!」
「そっかー。よかったな」
おいでって手を広げられたから、だっこしてくれるのかな?ってそっちに手を伸ばす。
脇を持たれて、立ち上がると佐々木課長は俺のことを高い高いしてくれた。
「わぁ!すっげー!とーさんより高い!」
「ははっ、楽しいか!」
「楽しーっ!」
高いところから見下ろす店内。
カウンター内にはいつも綺麗で優しいリュートさん。
遠くの席に、初めて見る人。
多分ねー、ネコの人。
…あっ!でもリンナさんにネコじゃないって言われちゃうと、ネコとタチの区別が付くようになったって思ってた自信も無くなっちゃったなぁ。世の中にはどっちでもいいって人も居るみたいだし。
そのリンナさんを跨いで、高山課長。
リンナさんの席まで行って何やら食い付いているみたいだ。
「あれはどういうことですか?本人が園児だと言っていますが」
「あ、あー…ね、当時の記憶まで呼び起こされて、混乱が生じると言いますか、そこがまだ試作段階なのかなぁ?んー…、でも平気よお!だってさっちゃん、ワタシタチのこと忘れてないじゃな~い。ね、梓ちゃん」
「ちゃん付けで呼ばないで下さい」
高山課長、怒ってるみたいだ。
また、胃薬飲むのかなぁ?
なら俺、お水用意してこないと。
「下りる~っ」
下ろして、と足をバタバタすると、床に下ろしてくれた佐々木課長が、苦笑しながら頭を撫でてきた。
………ん?佐々木課長?
そう言えば、どうしてこの人がローズにいるんだろう?
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