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マスターの仕事
「オイ、兄ちゃん。その子をどうする気だ?」
佐々木課長が声を掛けると、男は手を軽く上げながらハッと笑った。
アメリカカブレの人がよくやる、アハ~ン?って、あのポーズでだ。
「んだよ、オッサン。子持ちのアンタにゃ分かんねーかもしんねえけどなぁ?オレは今夜の相手にも困ってんの。地味な年上男で我慢してやろうとしてんだからさ、邪魔しねーでくんね?」
なん…て物言いだ!一発殴ってやりたい!!
プルプルと震える拳を掲げると、
「危ないから近づいてはいけません」
後ろから抱きつかれて、厳しい声音で囁かれた。
膝を床につけてまで俺を守ってくれているのは、高山課長だ。
せめて酷いことを言うなと怒鳴ってやりたい。けど、そのせいであの男の矛先が課長に向いてしまったら……
そう思うと身動きも取れずに。怒りを堪える為に、下唇をギリリと噛みしめる。
「こちらへは何をしに来られたんですか?」
柔らかくて、だけど凛と響く声が、耳に届いた。
「何をしにって、ナニする相手を探しに来たに決まってんだろ。ゲイバーってそう言うとこじゃねーの?マスターさん?」
挑発的に語る男に、けれどリュートさんは笑顔を絶やさず首を横に振ってみせた。
「他のお店のことは存じ上げません。けれどここは、一夜限りの相手を調達する場ではありません。大切な人を、2つと無い愛を探す、掛け替えのない出会いを提供する店です」
そうだ。
きっとリュートさんのそんな想いが、俺と悠さんを、夏木とリュートさんを、ここで出逢った沢山の2人を、幸せに導いてるんだ。
「お客様に楽しかったと笑顔で帰って頂くのがマスターの仕事です。ですから、貴方にもこれ以上嫌な思いをさせたくはない」
そしてリュートさんの顔から、笑みが外れた。
「その方を放して、お帰り願えますか」
ヒュ~ッ、と口笛が鳴る。
「惚れ惚れするねぇ」
佐々木課長の呟きに、高山課長がピクリと反応し、背後で小さく溜息を吐いたのが分かった。
だけど、これで尻尾を巻いて逃げ帰るかと思っていた男は、それどころか、リュートさんの言葉を鼻で笑い飛ばした。
「はっ、2つと無い?掛け替えのない?……マジかよ、男同士で?な~に夢見ちゃってんの」
ムッとして飛び出そうとすれば、また課長に強い力で引き留められる。
「ホントは女のが良いんだけどさぁ、男同士のが後腐れ無くて楽なんだよね。妊娠もしねーし?中出しし放題~って」
「っ───ゆうさんは!ちゃんとゴムつけてくれるもん!中で出すとおなかイタくなるからって、ちゃんとしてくれるもん!」
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