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ごめんなさいじゃなくて
リュートさんが探してきた長い鎖でぐるぐるにされた男は、悠さんの呼んだガタイの良い男の人に連れて行かれた。
男の身体を鎖で巻いて南京錠で留める姿に、なんだか既視感を覚えてしまったんだけど。(番外編『大好きな人、大切な人』29.刑事さん・参照)
これから、『熊ガール』って言うドラァグクイーンのお店に搬送されるんだって。
そこには180cmオーバー、85kgオーバーの人ばかりが揃っていて皆頼りになるんだと、悠さんが教えてくれた。
下働きをさせながら教育を施すんだそうだ。
仕事も貰えて立派な人間にもなれて、……それが、どうしてお仕置きになっちゃうんだろう?
男が居る間ずっと震えていたその人はホッと息を吐き出すと、一度座らされたスツールから立ち上がって、俺達みんなに頭を下げた。
「ご迷惑をお掛けしました。あの…、僕、椎名と言います。先程は、見ず知らずの僕の所為で皆さんを危険な目に合わせてしまって、すみませんでした!」
ん?と不思議に思って悠さんを見上げる。
「ゆうさん」
「どうした?」
「お兄さん…シーナさんね、わるい人におそわれたの。だからね、いけないのはわるいヤツ、でしょう?」
「ああ、そうだな」
頭を撫でるタッチが、いつもより弱い。
俺が子供になっちゃってるから、力加減がわからないのかな?
ちょっとだけ、こそばゆい。
「だったらね、お兄さんはごめんなさいしなくていいんだよ。あのね、助けてもらったときはありがとうって言うんだよって、お母さんが言ってた!」
「うん、そうか。皐月のお母さんは、とても素敵なお母さんなんだね」
「うん!お母さんおこるとコワイけど、かわいくてやさしいからだーいすき!」
手を広げてこんなにスキー!って教えていると、
「ありがとうございました…っ」
椎名さんの、消えちゃいそうな震える声が、耳に届いた。
それから、
「ありがとうございました!!」
椎名さんはもう一度、今度はとっても大きな声でお礼を言うと、深く、深く頭を下げた。
「どういたしまして」
俺が答えれば、皆も口々に応えて返す。
やがて、椎名さんは頭を上げ、少し恥ずかしそうにこそっと元の席に戻っていった。
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