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犯人、不用意に名乗り出る
静かに戻った店内で、悠さんが「そうか~。皐月は美雪さんが大好きなのか…」と羨ましそうにボヤいてる。
ヘンなの。お母さんも好きだけど、1番は断然悠さんに決まってるのに。
「じゃあ皐月、悠さんのことは好き?」
不意に顔を覗き込んでそんな事を訊いてくるから、恥ずかしくて顔が赤くなっちゃう。
「んとっ、んとー、ゆうさんはお母さんとはちがくってー…」
悠さんの太腿の上で回転して、膝立ち。
「耳かしてっ」とお願いすると、ちょっと屈んでくれた。
「ゆうさんのはねー、ちゅーしたいスキなのっ」
ナイショ話で伝えてすぐ、恥ずかしくなって顔を隠した。
きゃーっ!って1人で赤くなってると、突然悠さんにぎゅーって強く、抱き締められる。
「さつ「さっちゃあんっ」き……」
「かわいいっ、かわいいわっ!やっぱり幼児化ドリンク呑ませて正解!ショ~タ~萌~え~、キャーッ!!」
悠さんの言葉を遮って、リンナさんが黄色い声で叫んだ。
その言葉に、悠さんはピクッと反応し、俺の体をそっと離す。
「……リンナさん」
「へっ?!…はっ、ハァイ、社長っ。こ・ん・ば・ん・はっ」
バチン、バチンって、またあの重たそうなウインク。
「じゃ、じゃあ、ワタシそろそろ帰ろうかしらね。リュートちゃん、オアイソ」
「リンナさん」
ゆっくりとしたリズムで彼女を呼ぶ悠さんの声は、低く轟いて、まるで怒ってるみたいで……
「リュートちゃんっ、ツケといて!その薬っ、3~4日で効力切れるから!じゃあご馳走様ッ!!」
突風みたいなスピードで、リンナさんは店から転がり出て行った。
悠さんが怒ってるから逃げてったのかなぁ?
恐る恐る見上げるけど、ん?と俺を見下ろした悠さんは、優しい目をしてる。
声も優しい。
さっきの低い声はなんだったんだろう?
「3~4日!?」
「っ…!!」
突然響いた大声に、ビクッと肩を揺らす。
「ああ、ほら、梓、広川が驚いてるから」
高山課長が顔を青褪めさせ、唇を震わせていた。
「でも、広川君が月曜日…」
絶望的な響きを帯びた声に、何に恐怖を感じているのか記憶を呼び起こしてみる。
あ、あー…、そうか。月曜は確か、保険事業部から大量の入力データを渡される予定だから。
うちの課は課長、主任、先輩、俺の4人の所属。一人抜けただけでうちの課には大打撃だ。
これでも、入力スピードは課長に次ぐ二番手。
……うぅ~ん。俺、このサイズでも入力作業できるかなぁ?
手の大きさ違うからブラインドタッチ、難しいかなぁ。
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