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社会人のご挨拶

「あの、失礼ですが」 不意に、悠さんが課長達に声を掛けた。 そうだ!俺まだ課長たちのこと紹介してない! 「あのっ、かちょー。このカッコイー人が、ぼくのゆうさんです。  ゆうさん、えっとね、ぼくのかちょーのあずさお兄さんと、なつきの前のかちょー」 「…の、祥吾お兄さん、だろ。広川」 「ちがうよ!ゆうさん、お兄さんじゃなくて、しょーごおじちゃん」 「梓~っ、また広川がおじちゃんって…!」 「はいはい、祥吾さんはまだ若いですよ」 「若くはねーよ!」 「じゃあなんて言われたいんですか!」 漫才なのかな?ボケとツッコミの人みたいな遣り取りをする2人が落ち着くのを待って、悠さんは彼らに笑いかける。 「話は伺っております。高山課長さんと佐々木課長さんですね。いつも皐月がお世話になっております。香島と申します」 スーツの内ポケットから名刺入れを取り出して、それぞれに名刺を渡す。 「おっ。これはどうも。香島さんは、広川の嫁入り先ってやつ?」 「ええ。皐月は私の籍に入っております。戸籍上は親子ですが、我々は夫婦です」 「ああ、だから氏名変更か。婿養子じゃなくてな」 2人も鞄から名刺を取り出して、悠さんに手渡した。 名刺交換、お客さんと、…えぇと、こういう時はー……… 「あっ!ぼくのめーし、カイシャにおいてきちゃった!」 俺だけ交換出来ない、と困っていると、悠さんが苦笑しながら頭を撫でてくれる。 「皐月は誰と名刺を交換するつもりなんだ?同じ会社の方と、俺しかいないだろ」 「あっ、ほんとだ!じゃあめーし、なくていいのか」 早とちりしちゃった。恥ずかしいなぁ。 あの薬飲んで縮んでから、どうも思考が混乱してる。なんだか上手く喋れてない気がするし。 だけど、悠さんが優しいのはいつものことだけど、今日は佐々木課長も優しいし、高山課長も普段よりずっと笑ってくれてる。 子供になって、それだけは得したなぁって、ちょっと嬉しく思う。 「あ…、でもね、ぼく、ゆうさんのめーし、ほしいなぁ」 そう言えば、俺も貰ったことない名刺、課長たちだけ受け取るのはズルい! 袖をツンツン引っ張っておねだりすると、 「はい、どうぞ」 悠さんはわざわざもう一度名刺入れを取り出して、そこから1枚渡してくれた。 「わぁ…!ゆうさんのめーしだ!だいじにするね!」 俺もスーツの内ポケットに、…と思ったけど、これ、スーツじゃないや。リンナさんの持ってきた子供服だ。 そもそも此処に来た時既にラフな服に着替えてたんだっけ。 「んと、んとっ」 「どうした?皐月」 しまうところを探してると、悠さんが心配して顔を覗き込んでくる。 「んとね、めーし、ドコにしまったらいい?」 訊けば悠さんはやんわりと微笑んで、それからリュートさんに視線を向けた。 「リュート、皐月の服は?」 「部屋で預かってるよ。今着てる服は、リンナさんが持ってきたみたい」 「皐月の財布もそっちか。これ、後でいいからしまっておいてくれるか」 悠さんからリュートさんに名刺が渡る。 「皐月、リュートに財布にしまっておいてもらうからな」 「うん!リュートさん、ありがと!」 お礼を言うと、リュートさんが笑顔で応えてくれた。

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