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消えないもの
「はぁ……。結局は皆可愛い男の子にいくのよね…」
ルミさんが、重たい溜息を吐き出した。
「せめてリュートさんがオネエだったら、この店にもそう言う客がもっと来ると思うんだけど」
ルミさんの愚痴に、リュートさんが「すみません」と苦笑混じりに頭を下げる。
良くニューハーフや女装家、ドラァグクイーンの人たちも一緒くたにオネエと呼ばれるけれど、それは誤用で、
オネエの定義は服装含め見た目は男、だけど心や口調は女性、な人たちのことらしい。
よくテレビで映されるゲイバーのママには、このタイプの人たちが多い気がする。
ローズのお客さんは、心も体も好きな相手も男と言う、一見して分かりづらい人が多い。
ローズの中だけじゃない。世の中も、そうだ。
だけどそういった過半数の人たちはゲイであることを隠す傾向が強いから、インパクトの強い人ばかりがクローズアップされて、ああ、ゲイとはこういう人達のことなのだと、世の中に誤認されてしまう。
リュートさんはとても綺麗な人だけど、だからってオネエ扱いされると傷ついてしまう。
過去、自分の性志向に気付いた頃に、それを知らない筈の男の子たちに「男女」「おかま」って揶揄われた。
その事を思い出して、悲しくなっちゃうんだって、前に教えてくれた。
「───よし、アタシ次へ進むわ!よくよく考えたら43なんて父親ほども離れた歳じゃない!アタシにはオヤジ過ぎたのよ!!」
大声でそんな事を叫ぶと、ルミさんは「ごちそうさま!」と5千円札をカウンターに置き、意気揚々と帰っていった。
「ありがとうございました」
……うん、そっか。ルミさん、まだ二十歳そこそこだったんだ…。
ルミさんも性転換手術前は、さっき悠さんが言ってた『熊ガール』のショーで踊ってたんだって。
背が高くて、結構大柄で頼り甲斐ありそうで、あの…ニューハーフでお化粧もしてるのに青ヒゲ?目立ってるから、…俺より歳上なのかなぁ?って……、ごめんなさい!!
なんとなくそのまま、彼女の消えていった扉を見つめていると、
「皐月、そろそろ帰るよ」
背中からヒョイと抱きあげられた。
「あっ、んんっ、くすぐったぁい」
腰を掴む手の感触に悶えてると、もう一度イスに下ろされた。
「だっこはぁ?」
両手を差し出して、足をばたばた。
悠さんは額に手をやると、
「皐月、お前小さくなった割に色気が消えきってないぞ…」
困惑の表情を浮かべて溜息を吐き出した。
「あたりまえでしょ。おれ、25才だもん」
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