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理性と本能

【悠Side】 翌日、土曜日。 随分と朝早くに目覚めてしまった。 先に出かける用意を済ませ、テレビをつける。 皐月は起きる時間まで寝かせておいてやることにした。 暫くすると、背中に「わっ!」と軽い衝撃を受けた。 「うわっ、皐月か?おはよう」 そーっと近付いてくるのは気配で分かったが、余りに可愛いことをするものだから驚いてみせると、皐月は嬉しそうにきゃっきゃと笑った。 「おはよう、ゆーさん!ね、びっくりした?」 「ああ、びっくりしたよ。今起きたのか?自分で起きられて偉かったな」 「うん!…あ、でもねー、起きたらゆーさんいなくてさみしかったんだよ!だからね~」 そこで止めると、皐月は突然踵を返し部屋を出て行ってしまう。 「皐月、走ると転ぶぞ」 「は~い、きをつける~」 それから3~4分。 長いな、と心配になった頃戻ってきた皐月は、ただいまっ!と笑顔を向け、ソファーに座る俺の膝によじ登ってきた。 こちらに向かい、跨って座れば自分が随分下になってしまうのを考慮してか、太ももの上に立とうとする。 危なくないよう腰を支えてやると、首に手を回して顔を寄せてきた。 口元から香るのは、歯磨き粉のミントの爽やかさ。 「ベッドに1人でさみしい思いさせたおわびに、おはようのちゅーしてくださいっ」 その為に急いで歯を磨いてきたのか。 俺の用意がすっかり整っているから、自分も寝起きの口を綺麗にしなくてはと思ったんだろう。 愛しさが胸から溢れ出る。 普段ならばこのままどうにでもしてしまう流れだが、今の皐月ではそうもいかない。 小さくキスを落とすだけに収め己に我慢を強いるも、幼い皐月にはそれだけでは物足りなかったようで、「もっとぉ」と強請るように唇を奪われた。 ───まったく。罪な子だ。 触れるだけの軽いキスを、皐月が満足するまで繰り返してやる。 頬は上気し、吐く息は甘く蕩けていく。 立っているのが辛そうだから、膝の上にそっと横たわらせて覆いかぶさった。 体が柔らかい方ではないから、正直前屈みの体勢は苦しいが、この程度でも痛みを感じていた方が我が身を律せるだろう。 やがて皐月は穢れない顔で嬉しそうに微笑むと、 「ありがとう、ゆーさん。もうさみしくないよ。大好きっ!」 勢いよく俺の胸に抱き付いたのだった。 皐月…。お前の大好きな悠さんは、本能の荒波に浚われないよう、理性と言う名の岩礁に必死にしがみ付いているんだぞ。………はぁ。

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