282 / 298
朝の出来事
【悠Side】
夏木家との約束よりも15分早い時間に、1階のコンビニエンスストアに向かった。
「いらっしゃいませー」
「おはようございます」
「おはようございまーす!」
レジに立っていた店長の春美さんに挨拶すると、こちらに向けていた笑顔が、あら?と言う表情に変わった。
「少々問題が生じまして、これでも皐月です」
何かを訊かれる前にそう伝えた。
「あら、…え?…まあ!…そうなの?皐月くん?」
春美さんは流石に半信半疑のよう…だが。
「うん!昨日ねぇ、リンナさんに渡されたジュース飲んだら、ちっちゃくなっちゃったの。でもね、中身は25才のままなんだ!」
「知り合いにマッドサイエンティストが居まして…」
本人は否定することだろうが、こちらから見れば『幼児化薬』など作る輩は『狂科学者』で充分だ。
「あらぁ、そうなの。そう言うこともあるものなのねぇ」
春美さんはレジから出てきて、皐月の頭を優しく撫でている。
皐月は嬉しそうにニコニコして、両手を春美さんに万歳で差し出す。
「春美さん、だっこ~」
「あら、可愛い。あ~、これ皐月くんだわ。本物ね。可愛いわあ」
どうやら信じてもらえたらしい。
…が、子供の頃の皐月はこうやって、可愛がってくれる相手には誰彼構わず抱っこされていたのか。
美雪さんもさぞや心配だったことだろう。目を離せば簡単に誘拐されてしまいそうだ。
「香島さん、皐月くんは私が責任もって預かりますから、どうぞ店内ご自由にお回り下さい」
「いってらっしゃ~い」
春美さんに抱っこされて手を振る皐月。
まったく、暢気なものだ。
まあこれも、俺が見える位置に居てこそ得られる安心感から来る行動なのだろうが。
「本当は皐月を構いたいだけのくせに」
これくらいの嫌味は許されるだろう。苦笑してそう呟けば、春美さんは否定せず可笑しそうに「まあまあ」と返した。
そして、コーヒーペット缶や、紅茶やジュースの500mlペットボトルを10本ほどと、レジ背後に掲示されている贈呈用の菓子折りを買ってマンション側の入口へと移動する。
約束の時間の5分前。
丁度夏木とリュートが下りてきたタイミングで、大型のワゴンが道端に寄せて停まった。
ともだちにシェアしよう!