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【悠Side Plus ・・・】 途中トイレ休憩でサービスエリアに寄った。 「お父さん、俺クレープ食べたぁい」 掌を差し出した奏太君。福太さんが財布を取り出そうとするから、それより先に掌に5千円札を乗せた。 「奏太君、皐月も食べたいと思うから、これで一緒に買ってあげてくれる?」 「はい、ごちそうさまです!」 「ありがとう、ゆーさん」 奏太君と皐月が頭を下げると、福太さんが申し訳なさそうな顔をこちらに向ける。 「ありがとうね、悠君」 「いえ、迎えに来て頂いている身でガソリン代も高速代もお支払いせずに…」 「いやいや、それはこっちが好きでやってるんだからいいんだよ」 福太さんはトイレに、皐月と奏太君はクレープを買いに向かっていった。 涼太君は2人について行くつもりだったらしいが、「皐月くんの面倒は俺がみるの!」と追い返されていた。 そして残された俺たちは…… 「夏木、手土産を選びに行くから付き合え。福太さんと史香さんは何がお好きなんだ?」 「え?なんでもいいんじゃないですか。なんでも食べますから、2人とも」 「もっとお前は親身になれ。社長命令だ、候補を2~3に絞れ。最終決定は俺が下す」 「ええ~っ、何それ休日まで横暴なんスけど!!」 「つべこべ言うな。行くぞ」 やかましい夏木を連れて、土産売り場へ向かう。 俺だって、男臭い夏木なんぞより皐月と一緒にいたいに決まっている。 しかしクレープは、皐月と奏太君のような可愛い少年に似合う食べ物だ。 なにより、可愛い2人が手を繋いで楽しそうに「いってきまーす」と意気揚々と出かけていく姿を見て、自分もついて行くなどと30過ぎのおっさんが言えたものか。 *  *  *  *  * すこぶる嫌そうに従兄に連れて行かれる夏木を見送って、リュートは、恋人でもある弟に置いて行かれてしょんぼりと、落ち込みを隠せない涼太の姿を振り返った。 「涼太くん、大丈夫?」 「あ、…はい、大丈夫です」 「何も用事が無いようなら、座って待ってようか」 窓側のイスに足を向けると、涼太もそれに続く。 「リュートさんはいいんですか?お土産や食べ物、たくさんあるようですけど」 「何かあれば功太が買ってきてくれるから」 リュートが窓に向かったイスに腰を下ろすと、涼太も倣って隣に座った。 「だからね、僕は涼太くんと少し話そうと思って」 俯きがちの涼太の目の前に、はいと差し出されたのはアイスティーのペットボトルだった。 リュートはそれとは別の、自前の水筒から温かいお茶を一口飲み、蓋を閉めてバッグにしまった。 「お母さんは元気?」 「元気です。今日来られなかったのは午前中歯医者の定期検診の予約が有ったからで、変更しようとしたら来月になるって言われたらしくて」 「よかった。具合が悪くてお家で休んでいるんだったら申し訳ないなって思って」 ホッとした笑みを零すリュートに、涼太も笑い返す。 けれど次の句を聞いて、涼太はその笑みを一瞬の内に蒼褪めさせた。 「お父さんとお母さんは知ってるの?」 それは、自分と弟である奏太との関係のことなのだろうと思い至る。 この人から発された言葉だ。脅しの類でないことは分かる。だが…… 「やっぱり、言えない?」 「っ……言えません…」 いつかは話さなくてはいけない日が来るかもしれない。そんな日は来ないままに、両親と離れるかもしれない。 出来ることならば、知られることなくひっそりと2人で幸せに暮らしたい。 けれど、奏太のことだ。ポロリと零して自ら暴露してしまうことも危惧しなければならない。 「2人は今、幸せ?どっちが先に好きになったのかな?奏太君はどんな風に可愛いの?」 何故そんなことを訊いてくるのか、何故話さなければならないのか。 兄の配偶者であるこの綺麗な人が、苦手になってしまいそうだ。 涼太は顔を俯け、唇をきゅっと噛み締める。 リュートはそんな涼太の姿に小さく息を零すと、震えるその手に手を重ね、空いた方の手で頭をそっと撫でた。 「涼太くんは、1人で抱え込んじゃうタイプでしょう?僕も昔、そうだったから。 抱え込まなければならない気持ちは苦しい。誰にも言えない想いはやがて重石になってしまう。 だけど、こう言うことを話せる相手って、なかなかいないでしょう? 僕なんてちょうどいいと思わない?勿論無理やり聞き出そうなんて思わない。でも少しでも楽になるなら、こんな馴れ馴れしいおじさん相手でも話しちゃおうかなって、そんな気にならないかな?」 「ッ……リュートさんは───っ」 藍色のチノパンに、ポタリと滴が零れ落ちる。 「おじさんじゃなくて、功兄の奥さんで、…僕たちの家族ですっ…!」 「うん。……ありがとう」 そしてリュートのホワイトのスキニーパンツにも、涙の粒がポツリと落ちた。

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