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壮太と皐月

お昼はちらし寿司。 夏木のお兄さんが新鮮なお魚を買いに行ってくれたんだって。 突然来ることになったのに朝からわざわざ市場まで買いに行ってくれて、夏木のうちはお兄さんもいい人なんだなぁ、って思ったんだけど……。 「んで、君がノンケの広川君?ちっちぇーとわっかんねーな。大人の時の写真持ってる?」 夏木家長男・壮太さんは、どエライ失礼な人だった!! 頭を下げてご挨拶してたのに、顎をクイッて、顔を覗き込まれて。横暴なその態度に辟易する。 手を払いのけて、悠さんの元へ逃げ戻った。脚にしがみつくと、向こうから顔が見えないように抱き上げてくれる。 「壮太っ!テメェなに広川いじめてやがる!」 「つか、こちら香島さん?…そりゃお前、勝てねぇわ~」 「うるせーよっ!」 怒ってる夏木に向けた憐れみを帯びた声。 そりゃあ、夏木が悠さんに勝てるわけなんてないけど、それがどうしたって言うんだろう。 「壮太!皐月くんいじめないでよね!」 「は?うるせーよ、カナ。別にいじめてねーっつーの。刺身やんねーぞ」 なんて暴君長男だ。 奏太くんにまで意地悪言うなんて酷い!と思っていると、親父様が物凄く怖い声で壮太を呼んだ。 途端、態度を一変して謝る壮太。 流石4兄弟のお父さん。うちの父親とは貫禄が違う。 「おい、広川。悪かったな」 バツが悪そうな顔をして、手を差し出してくる。 「なかなおり…?」 握手しようとしてる? 悠さんが、仲直りしておいで、って畳に下ろしてくれる。 だけど、意地悪壮太のことだ。そう見せかけて、手を出したら腕をひねられたり痛い目に合わされるかもしれない!! 「やだっ、そーたキライ」 ぷんっ、と顔を背けると、 「…んのやろーッ」 こめかみを拳で挟まれて、ぐりぐりやられた。 「いたいいたいっ!ゆーさぁんっ!」 「っ皐月!」 「うぶっ…!」 助けを呼ぶと、悠さんが慌てて壮太の額を掌で押し離してくれる。 「う~~、いたい~……ひぐっ」 「大丈夫か?皐月」 ああ、可哀想に、と悠さんは頭をいいこいいこしてくれるけど、それで痛みが治まるわけもなくて…。 「壮太!お前は昼飯抜きだ!」 「ひっ!……すんませんでしたーーっ!!」 親父様に怒られた壮太が土下座して謝ってる。 だけどやっぱり、そんなことをしてる姿を見たところで頭は痛いまんま。 「もう、あの子は!ごめんね、さっちゃん」 ごはんの用意をしていた史香さんが、わざわざ出てきて謝ってくれる。 「痛いね~。痛いの痛いのとんでけー。ほら、少し楽になった。ごはん前だけどいちご食べる?」 「うん、たべる。……ぅくっ」 「もっかい飛んでけしようか。ほら、痛いの壮太にとんでけーっ」 こめかみに手を当てて、壮太の方に向かって痛いのを飛ばしてくれる。 「ほら、もうあんまり痛くない」 「うん。ちょっとしかいたくない」 「よし。じゃあ、いちご持ってきてあげるからね」 「うん。ありがとう。夏木のおかーさん、やさしくてすき」 「私もさっちゃん好きよ。これからもリュートと功太をよろしくね」 「はい!ぼくとゆーさんのことも、よろしくおねがいします」 「はい。夏木のお母さんと親父様のこともよろしくお願いします」 悠さんに下におろしてもらって頭を下げると、史香さんはもう一度優しく頭を撫でてくれた。 「流石、四人も育てた方だな…」 台所に戻っていく後姿を見送って、悠さんがぽつりと呟く。 ティッシュで俺の目の下を押さえて、「チーンするか?」って訊いてくる。 「ん………?」 悠さんを見上げて、う~ん、と考えて、目線を下ろして、向かい合った目の前。 「ちーんっ」 中指で悠さんの股間をピン、と弾いた。 「…皐月、そうじゃない……」 威力は弱かったみたいで痛がることは無かったけど。 悠さんは額に手をやって、大きくはぁ、と息を吐いて困った顔して俺を見下ろしたのだった。 あれ?俺、なんか間違った?

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