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おうじさま
【悠Side】
日曜日。
皐月のキスで起こされた。
胸に重みを感じて目を開こうとすれば、目の前に影が掛かって、体に乗り上げた皐月が可愛く「ちゅっ」とリップ音を立てた。
「おうじさま、おうじさま、おきてください」
お姫様のキスで起こされる王子様の話など聞いたためしが無いが、これはなんと幸福な目覚めなのだろう…と目を閉じたままぼうと考えていたら、焦れた皐月に再びキスを落とされた。
「ゆーさぁ~ん、どうぶつえん、いこっ」
ん~~ちゅっ、と色気のない口付けが可愛らしい。
「ハシビロコウがねー、うごかないんだって!」
「ん?死にそうな動物がいるのか?」
それにしてはやけに楽しそうだな、と訊ねれば、皐月は満面の笑みを浮かべ、
「やっとおきたーっ!」
朝から元気いっぱいな様子で力いっぱい抱き着いてきた。
「おはよう、皐月」
「おはよーございますっ」
小さな体を支えながら身を起こす。
「あのね、ハシビロコウはね、あんまりうごかないトリさんなんだって。かなたくんが教えてくれたんだ」
皐月はそう言いながらベッドから飛び下りる。その姿はすっかり外出用に整えられていた。髪の跳ねがところどころ直っていないのは愛嬌か。
「それでね、ぼくね、プレーリードッグとぉ、ゾウさんとぉ、ライオンさんも見たいし~、あっ、あとね!パンダも見よう!おっきいトリ小屋入ってぇ、ポニーにも乗れるの!それからねぇ…」
皐月が行きたいならば出掛ける用意をしようと洗面台に向かえば、楽しそうな皐月がついてきて色々と見たい動物を教えてくれる。
「いいよ、開園に合わせて行けば全部回れるだろう?動物全部見ような」
「うんっ!ゆーさんだいすきっ!!」
朝食を済ませて、皐月の髪を直し、9時半の開園に合わせて9時過ぎに家を出た。
今日は日曜日だが連休中では無いし、混むと言えばパンダ舎ぐらいなものだろう。
案の定、表門前はさほどごった返してはいなかった。
これがゴールデンウイーク中にもなれば、公園内を人が埋め尽くすかと思う程の長蛇の列が出来るらしい。
まあ、公園は相当の敷地面積を誇るから、本当に埋め尽くすことは無いのだろうが。
ゲートをくぐると、皐月は待ちきれないように小走りになる。
繋いだ手が離れないよう大股で追いかけ、ずれた帽子を直してやれば、
「ママー、ぼくもパパと手ーつなぐ~」
皐月が追い越した同い年ぐらいの子供が、大声でそう言った。
………そうか。6才の皐月と歩いていると、俺は皐月の父親に見えるのか…。
ズーン………
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