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助言
【悠Side】
ベッドで寝息を立てる皐月はまだ小さな体のまま、昨日今日とはしゃぎ回ったせいかぐっすりと眠りは深く、朝まで起きてきそうにない。
入浴中に眠ってしまったから、抱きかかえて風呂から出し、身体を拭いてドライヤーまで掛けたが、僅かにも皐月が目を覚ます事は無かった。
明日か、それとも明後日までか……
業務は、夏木と総務がいれば、2日程度ならこなせるだろうか。
皐月が戻らないようであれば休むと、夏木には先に伝えてある。
あいつもなかなか気の利く奴だから、
「俺もそのつもりでいました。昼間リュートさんに預けてもいいけど、広川ならやっぱり社長と一緒がいいって言うでしょう?会社は俺たちに任せてください。って言っても、俺はまだそんなに役には立ちませんけど…」
苦笑する夏木に、頼りないことを言うな、頑張ってくれよ、と車のキーを渡した。
だから、ドライブに連れて行ってやることは出来ないが。
まあ、たまには電車の移動も新鮮でいいだろう。公然の面前で堂々と、手を繋いで歩いたり皐月を膝の上に座らせる機会なんか滅多に無いことだしな。
今日も電車の中、過ぎる景色を皐月は楽しそうに眺めていた。
スマートフォンを操作して、先日入手したばかりの電話番号に合わせる。
まだ8時過ぎだ。何もなければまだ起きているはずだが、さて……
恋人と共に過ごす邪魔にならなければいいと思いながら呼び出しを押せば、僅か3コールで通話が繋がった。
「はい、高山です」
皐月の上司の高山課長だ。
「夜分恐れ入ります。広川皐月のパートナーの香島です、こんばんは。今お時間は宜しいでしょうか?」
「こんばんは、香島さん。ええ、結構ですよ」
高山課長に、皐月がまだ戻らないため明日は有給休暇を頂けないかと訊ねると、快く許してもらえた。
が、
「一つだけ条件が有ります」
「私に出来る範囲でしたらなんなりと」
少々身構えて答えれば、フッと小さく笑う声が聞こえた。
「では、昨日今日もし写真を撮っていれば、私にもお裾分けして頂きたいのですが」
この、一見神経質で他人に興味など無さそうな上司は、その実甚く皐月のことを気に入っているらしい。
「ええ。それでは後ほど、秘蔵の写真を送らせて頂きます」
笑いを堪えながら答えれば、向こうが先に、ふふ、と吹き出した。
「可愛らしい写真をお待ちしております」
それから、昨日今日はどう過ごしていたのか、と、まるで祖父母に子を預けた母親のように訊かれ、こちらからも会社での皐月の様子を訊き。
気付けば皐月の話だけで三十分も話し込んでいた。
通話を切り、キッチンへ移動する。
皐月が呑めないのに目の前で呑んでしまっては可哀想だから、今夜は一人で晩酌だ。
左手にスマートフォンを持ち、右手にはブランデーグラスを。
この2日で撮り溜めた写真をチェックしていく。
昨日の写真は、夏木家で撮ったものが主だ。
それから帰りがけ、少しだけ海に寄って砂浜で写した写真。
そして今日は動物園。
ぞうさんと撮って!キリンさんと!と、皐月のリクエストもあり相当の枚数を写していた。
途中で、こんなに撮っても怒られないのだったらデジタルカメラを買ってくればよかったと後悔したが、後の祭り。
まあ、近頃は携帯電話でも画素数が上がり大差無い写真が撮れるというし……
100枚近く収めたフォルダから数枚をピックアップして送ると、すぐに高山課長からお礼の返信が届いた。
その文面の最後には、
『寝顔は押さえましたか?
今だけですよ。』
『今から撮りに行きます。
助言、感謝致します。』
そう返事を打つと、起こさないようこっそりと寝室へと向かったのだった。
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