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部下
【悠Side】
翌朝、夏木に休む旨を告げた後、総務の内海にも連絡を取った。
内海 遥 は皐月と同じ年の男で、バリネコのゲイ。
学生時代に取得したという秘書技能検定試験の技能を活かし、秘書紛いの仕事もこなす有能な男だ。
先月ローズに連れて行き初めて皐月と会わせてみたが、思った通り意気投合。
ついヤキモチを焼きたくなるほどに仲良くなり、俺そっちのけで小中学生の頃観たアニメの話で盛り上がっていた。
これがジェネレーションギャップと言うものか…、と少し寂しくなったりしたものだ。
いつの間にか「さっちゃん」「よーちゃん」と呼び合い、2人で夏木をイジっていた。
ネコに囲まれるとタジタジしてしまうのが夏木の弱い所だ。
堂々としていればいいのに、困った顔でそれでもヘラヘラ笑っているから、リュートもあからさまに機嫌が悪くなっていた。
まあ、あからさまと言っても、あいつが営業中に不機嫌を態度に示すことは無いんだが。
付き合いが長い所為か俺には、それから自らに訪れようとしている危機を察知してか 夏木にも感じ取ることができる、逆に言えば俺達にしか分からない不機嫌のサインだ。
まあそんな事は今はどうでもいい。
「すまないが、皐月の面倒を見る為、今日は休みをもらおうと思うんだが、構わないか?」
『ええ、今日は来客の予定もありませんし、大丈夫です』
「緊急の用があれば電話を繋げてもらって構わない」
『かしこまりました。それは良いんですが、…さっちゃん、具合悪いんですか?』
キリッと仕事用の応答をしていた内海がその声音から心配の色を滲ませた。
「いや、本人は元気なんだが…」
内海ならば話しても構わないか、と判断し、事情を説明しようと口を開けば、そのタイミングでリビングの扉が開いた。
「ゆーさぁん!…っ、とと、おでんわ?」
元気に入ってきたかと思えば、耳元のスマートフォンに気付き小声になる。
手招きすると小走りで、指さした俺の膝に座った。
「内海、皐月と替わる」
『えっ、はい』
電話の相手が内海だと伝えると、皐月は笑顔で差し出した電話を受け取った。
「よーちゃん、おはよーっ」
朝からテンションの高い、それに加え声も高い皐月に、内海は予想に違わず動揺しているようだった。
「あのねー、リンナさんに、ようじかジュース、飲まされちゃったの。それでね、今ぼく6才なんだー。
………………
ううん、ちゃんと25才だよー?
え?
……ううん、悠さん、あんまりえっちなことしてくれないよ。でも、ちゅーはしてる~」
「皐月、俺たちの事情は話さなくていいから」
内海の奴め、6才の皐月に何を訊いてるんだか。
「うん!またね!じゃあ、ゆーさんに替わりまーす」
内海との電話が楽しかったようで、皐月はニコニコと満面の笑みを浮かべ、「お電話ありがとう、はい」とスマートフォンを差し出した。
「ああ、ありがとう」
受け取ると、ふふ~、と言いながら胸に抱き着いてくる。
その頭を撫でながら、スマホを耳に当てると、
『うわ……、先日も思いましたが、さっちゃん相手にしてる社長、甘くてちょっと……気持ち悪いですね』
「………」
社員の明け透けな意見を聞くことも、社長の仕事の一つだろう。
円滑な業務を行う為にも、社内の雰囲気作りの為にも、こういった社員の軽口にも………
「……うるさい。皐月から聞いたと思うが、リンナさんに開発段階の幼児化薬を盛られて、皐月は今6才の体だ。仕事には行けないし、1人で置いておくのも心許無いから傍にいたいんだが」
『そう言うことでしたら、社長はさっちゃんと一緒にいてあげてください。本日の業務は私たちにお任せください。そして、小さいさっちゃんのお裾分けを僕にも下さい』
心強い言葉の最後に、何か付け足されていたような気もするが。
「夏木にも伝えてあるから、すまないがあいつと協力して…」
『ちょっと社長、ちゃんと聞いてました?さっちゃんの写真欲しいなぁ…、社長いないんじゃ仕事やる気起きないなぁ』
「わかったわかった。後で送る」
『よろしくお願いします!それではこの不肖、内海遥、誠心誠意仕事に励むことを誓います!』
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