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ふさわしい服
【悠Side】
「おでんわおわった?」
スマートフォンをスタンドに戻すと、皐月が腰に回していた(実際は腕が短くて回り切れていないが)手を離し、膝から立ち上がった。
「ゆーさん、おはようございます」
膝の前で手を揃えて、ぺこりと頭を下げる。
いちいち効果音の付きそうなその動きに、つい口許が緩んでしまう。
「おはよう、皐月」
おいで、と手招きすれば、背伸びをした皐月にちゅーっ、とキスをされた。
「着替えに行くか」
皐月を抱き上げ立ち上がる。
「今日は何処に行きたい?」
「どっかつれてってくれるの!?えー、どこがいいかなぁ…?」
一生懸命考えている皐月を連れ、ウォークインクローゼットに移動した。
下におろすと、皐月はポンポーンと勢いよくパジャマを脱ぎ捨てた。
今日は皐月の幼児化最終日になるかもしれない。
最終日にふさわしい服───お借りした中でも一番可愛い、聖歌隊の白いセーラーカラーの服を皐月に渡した。
ショートパンツにベレー帽、この服を着た皐月をより可愛く残せる撮影スポットは何処だ?
いっそこのまま夢の国へ連れて行くか?東京駅から京葉線……、ああ、くそ。夏木に車を貸すんじゃなかった。
「あ…れ……っ?」
一人考えを巡らせていると、突然皐月が驚いたように声を上げた。
「あっ、やっ、ちょっ…イタッ!」
「どうした皐つ…っ!?」
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