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アイツノ正体 3
日曜日、昼下がりの曲がり角の古本屋兼たばこ屋。
店の奥のレジ台を机代わりに、皇は本の文字を追っている。
月人は向かいの建物の影に隠れながらその様子を伺う。
なんというか、その物静かでやや憂いを帯びた雰囲気、あいつ黙ってれば結構美人...、と思いそうになり慌ててその考えを打ち消した。
今しなくてはいけないことは、あいつをいかに速やかに抹殺するかだ。
「こんにちは~」
店に綺麗な栗色の髪をした女性が入っていった。
白いワンピースと桜色のカーディガン。お客さんだろうか。
「...どうも」
皇は本から顔を上げて、微笑みを浮かべた。
月人は道を挟んで向かい側の建物に居るにも関わらず、会話も本をめくる音さえもその場にいるかのように聞き取れてしまうのだ。
本当俺ってハイスペック、と改めて感動しながらも会話を盗み聞く。
「ねー聞いてよ!」
女性は皇の所へ向かうとそう喋り始めた。
お得意様なのだろうか。というか、いつの間に仮店主として受け入れられる、溶け込んでいる所を見ると
やはりあの男は異形なのだろうと思う月人であった。
皇は彼女の話を相槌を打ちながら聞いている。
ああやって主婦の愚痴を聞いてやっているのか。
魔女のくせに人間の愚痴を聞くだなんておかしな奴である。
「だから私もうずっと口聞いてないのよー」
一向に帰る気配がなさそうで、月人はため息を零した。
昼間の間はやっぱり無理そうだ。夜に出直そう、と踵を返す。
「月人くーん?仕事サボって何してんのかなァ」
不意に頭の中で声が響いた。
月人は目を見開き、勢い良く振り返る。
店のレジ台から一歩も動かず、相変わらず主婦の話に頷きながら
皇の目だけがこちらをじっと見ていた。
ばれていた。ばれていたのだ。
月人は動悸がするのを感じながらも、その場から動けずにいた。
「倉庫に"赤と黒のベッドサイド"って本があるから持ってこい」
また頭の中で声が響いた。
皇の爽やかすぎる笑顔が逆に怖い。
どうやらハイスペックなのは向こうも同じらしい。
しかし自分は脳に直接語りかける術は持っていない。
「なんで俺が...」
「バイトだろ。店主の言う事絶対」
「ぐ...仮のくせに...」
月人はその場で呟きながらも、
ギクシャクと強張った身体を引きずり倉庫に向かった。
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