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アイツノ正体 4
店の裏手の倉庫から、指定された本を探し出し
月人はため息をつきながら店へと向かった。
あいつが魔女、というのは本当らしい。
こいつ脳内に直接...!という人並みはずれた技はもちろん
同じく人並みはずれた気配の殺し方をしていた月人をあっさり見破り、
それでいて遠くからも逆らえない雰囲気を送り込んできた。
全く、やっかいな奴に出会ってしまったものだ。
「持ってきましたけど...」
店に入るや否や、挨拶もなしに月人は呟いた。
喋っていた女性と皇が同時にこちらを見る。
「お。やっと来たな」
「あら、こんにちは」
連続して言われた言葉に、月人ははっとなる。
盗み聞きしていたせいで自分もさっきここに居た気になってしまっていた。
「こ..こんにちは、いらっしゃいませ!」
お得意のイケメンスマイルと共に爽やかな挨拶をする。
「バイトの子です」
女性が何か言う前に、皇はそう紹介した。
そうなの~?、と女性は月人に近付く。
「あらまー可愛いわね。高校生?」
「ええ、まあそんなところです」
彼女は興味津々といったように月人に顔を近付けて話しかけてくる。
皇の前で魔法を使うわけにはいかないし、余計なことを聞かれると面倒なので月人は渾身のスマイルを浮かべたままじわじわと移動し
レジ台の横に置いてあった箒を手に取った。
「では僕は外を掃除してきます!
ゆっくりしていってくださいね!」
笑顔を浮かべてそういうと、どうもー、と女性は嬉しそうにした。
ムカムカしながらも月人はレジ台に持っていた本を置き
女性に背を向けた状態で、皇を凄まじい形相で睨む。
「虫ケラにしてはよく出来てたと思うぞ。見つけんのに0.3秒もかかっちゃったし」
本を手に取りながら、小声で皇が呟いた。
「お前マジで殺すからな...背後には注意しろよ...」
月人は引きつった笑みを浮かべながら同じように呟く。
「あーはいはい。できたらいーね」
間延びした返事に月人はその眼鏡を今すぐ粉々に砕きたい、などと思いながらも箒を手に店の外へと出る。
思わず言ってしまった為掃除をせねばならなくなってしまった。
また主婦と話を始める皇を
箒を両手で握りしめてバレないようにこっそりと睨んでおいた。
クスクスと楽しそうに笑う二人。
月人はなぜだか妙な気持ちになって奥歯を噛み締めた。
人のことを虫ケラだなんだと呼んで偉そうにしているくせに、
その横顔は、なんだか。
思わずぼけっと見つめてしまいそうになり慌てて月人は背を向けた。
いやいや、既婚者とイチャコラ喋りおって!不潔な!
解せぬ。月人はイライラしながら店先を神経質に掃除し始めるのであった。
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