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アイツノ正体 7

何を躊躇しているのか。サクッと殺せば、また明日からは平穏無事なハッピーラッキーライフが待っている。 そう、こいつさえ居なくなれば明日からは世界で一番の生物は自分になるのだ。 月人は長く伸びた爪を天に向かって突き出した。 もう片方の手を水平に伸ばす。 空気が凍りついたように静まりかえった。部屋は今、月人の魔法で支配されている。 彼は目が覚めることもなくあの世行きだ。 「...死ねっ皇!」 悪役のようなことを言い月人は爪を振り上げた。 爪はナイフのようにざくりとジャージを貫通し、肉体を貫いた。 確かに暖かい肉を引き裂いた感触があった ....のだが。 「え?」 おかしいと思った時には遅かった。 目の前に皇の姿はなく、月人の視界には天井が広がっていた。 「あれ?」 瞬きをすると身体の上に何かが乗っているような重たさを感じた。 いつの間にか部屋の空気は元に戻っていて、月人は目を見開いた。 「こんばんは、月人くん」 自分の上に皇が乗っていて微笑みを浮かべている。 振り下ろしたはずの片手はしっかりと皇の指と絡められていた。 「うあああぁぁぁ!?!なんっっでだーーー!?」 月人は様々な衝撃で思わず大声を出した。 殺したはずなのに死んでない、なぜか上に乗られている、なぜか恋人繋ぎをさせられている。 情報の整理に追いつかなかった。 皇は片耳を塞いでいた手を下ろしため息をついた。 「虫ケラの考えることなんかお見通しなんだよ」 皇は眼鏡をかけ直し、月人に顔を近付けた。 同時に絡められた指に力を込められ彼の爪が食い込むようだった。 先程から魔法が効かない。 しかし相手はかけてくる気もないようだった。 「くそ...俺を殺す気か..」 こんな屈辱は初めてだった。 人間達ももちろん、かつて同族達が数多く存在していた頃も月人は優れた吸血鬼で 誰にも、大人にも負けたことはなかった。 力も、美貌も頭脳も、魔法も。 皇は口を歪めて笑った。 「さあてどうしたものか。 この俺の寝込みを襲うとは許してはおけないが、 お前みたいな愉快な虫ケラは初めてだからなぁ」 絡められた指をゆっくりと解かれ、月人の腕はだらりとソファから落ちた。 身体に力が入らない。だがそれは魔法ではない。 威圧感で動けないのだ。 月人はやがて口も利けなくなり、ただただ怯えながら呆然と相手を見上げる。 やがて皇の顔は離れ何かを考えているような真面目な顔つきになる。 「まあ簡単には殺さねえよ さゆりさんも気に入っていたことだし… ちょっと協力して欲しいこともあるし」 皇は勝手に自己完結をし頷きながら月人の頬に触れた。 その瞬間ざわりと嫌な予感が身体を駆け巡る。 叫びたかったが身体が動かない。 その隙に皇の指が額に滑った。 「汝、我の兆す光に成りや」 透き通る声が部屋に響いた。 吸血鬼のDNAがどういうものなのかは分からないが、遺伝子が告げる。 彼は魔女で、確実に自分が勝てるような存在ではないことを。 額に触れた指先から光が溢れ始める。 やがてその光は大きくなり、月人は思わず目を閉じた。 何か叫んだかもしれなかったが、 溢れる光の中意識を手放していた。

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