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ホームレス美少年 3
「ふぅー...俺としたことが取り乱してしまった」
月人は顔を洗い髪を整えきちんと制服を着こなしいつもの"完璧な俺"になるとようやく落ち着いてきて
あれは寝ぼけていたせいで、いくら完璧な俺でも間違うことくらいはあるのだ。
そうでなければ生き物として可愛げがないものね、などと思い込むことにした。
思い込まねばとてもではないが保っていられない。
これ以上皇に弱みを握られてはたまるかと月人は台所に立つ。
一体いつ以来使っていないのだろうというほど閑散とした台所から察するに皇は料理など一切していないようだった。
というかあいつは人間の食材を食べるのだろうか?
「まあいいか。文句言ったらねじ込んでやる」
トントンとリズミカルに包丁を走らせながら、月人は悪態を付くのであった。
吸血鬼である月人は食物を食べる必要はないが、長い時の中で暇だったので覚えたのと
何よりシロエに与えなければならないので、毎朝毎晩一応自炊はしてやっているのだった。
「ごしゅーさまぁおはようございます」
シロエが足に擦り寄ってくる。
本来使い魔の方が早起きして食事の準備をするべきなのだが完全に立場が逆転していることに気付いていない月人であった。
「シロエ~お前なぁ起こしてくれればよかったのに...」
「ふぇ?」
「あーもういいわ。座ってろ」
月人の言葉を受けてシロエは静かに歩いて行った。
廊下を挟んで向こう側が畳の部屋で、時代を感じるちゃぶ台が置かれている。
鍋からは美味しそうな香りが漂い始めた。
料理が完成に近付いてくるにつれそれが完璧な食事だということが実感出来て、達成感と充足感が高まっていく。
そう、やはり俺は完璧。完璧素敵な存在なのである。
「おぉなにこそこそやってんのかと思ったら」
「!?!」
ひょこりと背後から皇の顔が出てきて月人は声を発する暇もないほど驚くのであった。
早朝から驚きすぎていくら吸血鬼といえど寿命が縮まったに違いない。
「こ、こそこそとかしてねえし!」
「あっそお。吸血鬼もこんなの喰うんだ?」
皇は鍋の中を勝手に覗き込みながらも呟いた。
いつも通りの眼鏡とジャージ姿の冴えない格好だったが、何故だかどぎまぎしてしまう。
まだ心臓が落ち着いていないらしい。
「俺じゃなくてシロエのだよ...あとお前の!」
そう言いながらも月人は料理を再開した。
皇はしばらく静止したがやがてこちらをみて片眉をあげる。
「....へえ?」
「なんだよ文句あんのか」
「虫ケラにしては気が利いてるな」
「もう邪魔だから座ってろ!」
「おー怖。鬼嫁」
「誰が嫁じゃ!」
皇は何故かくすくす笑いながらもシロエが待つ部屋へ去っていった。
全く何なんだよ。
眉根を寄せながらも、ちゃんと人間の世界の食材で作った飯でも食えるらしいという事に何故だかホッとしたりもするのだった。
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