33 / 66
極上ノ餌 6
じっと見られていることが分かる。
なんでそうじろじろ見てくるのか。
イライラして、そわそわして、
今まで感じた事のない感覚が、ひたすら怖くて。
「月人」
名前を呼ばれ手首を掴まれた。
びくりと体が強張り、恐る恐る彼の顔を見る。
ぱたぱたと髪から水を滴らせたその横顔に、
心臓が突き刺されたように痛んで思わず目を逸らしてしまう。
喉も胸もぎゅっと締め付けられて、許して欲しくて。
月人は視界が滲むのを見ないようにぎゅっと目を閉じた。
「............ごめん、なさい..」
いっぱいいっぱいの脳が導き出した答えは細い声で発せられ
それが正しいことなのかもわからなかった。
皇は何も言わずそっと手を離し、シャワーの水を止めた。
「どーいたしまして」
恐る恐る顔を上げると、濡れていたはずの彼はすっかり乾いていて
爽やかな微笑みを浮かべていた。
なんだよそれ..、月人はそんな言葉を零しながらも
何かおかしな魔法にでもかけられたに違いないと思うことにした。
でなければこんな、自分が自分ではないみたいな感覚に犯される事に説明がつかない。
一体どういうつもりなのだろう。
「ぼくが一体なにをしたっていうんですかああ!」
遠くの方でシロエが泣き叫んだ。
皇はくすくす笑いながらそちらの方へ行ってしまうのだった。
取り残された月人は、ふらふらと壁に寄りかかりながら、はあ、と深く息を吐く。
心臓がもたない。早くここから去るべきだ。
そう強く思ったのだった。
ともだちにシェアしよう!