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極上ノ餌 6

じっと見られていることが分かる。 なんでそうじろじろ見てくるのか。 イライラして、そわそわして、 今まで感じた事のない感覚が、ひたすら怖くて。 「月人」 名前を呼ばれ手首を掴まれた。 びくりと体が強張り、恐る恐る彼の顔を見る。 ぱたぱたと髪から水を滴らせたその横顔に、 心臓が突き刺されたように痛んで思わず目を逸らしてしまう。 喉も胸もぎゅっと締め付けられて、許して欲しくて。 月人は視界が滲むのを見ないようにぎゅっと目を閉じた。 「............ごめん、なさい..」 いっぱいいっぱいの脳が導き出した答えは細い声で発せられ それが正しいことなのかもわからなかった。 皇は何も言わずそっと手を離し、シャワーの水を止めた。 「どーいたしまして」 恐る恐る顔を上げると、濡れていたはずの彼はすっかり乾いていて 爽やかな微笑みを浮かべていた。 なんだよそれ..、月人はそんな言葉を零しながらも 何かおかしな魔法にでもかけられたに違いないと思うことにした。 でなければこんな、自分が自分ではないみたいな感覚に犯される事に説明がつかない。 一体どういうつもりなのだろう。 「ぼくが一体なにをしたっていうんですかああ!」 遠くの方でシロエが泣き叫んだ。 皇はくすくす笑いながらそちらの方へ行ってしまうのだった。 取り残された月人は、ふらふらと壁に寄りかかりながら、はあ、と深く息を吐く。 心臓がもたない。早くここから去るべきだ。 そう強く思ったのだった。

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