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魔界カラノ使者 1
と思ったもののやはりそう簡単にはいかないようだ。
絶対何か妨害されているに違いないのだ。
上手くいかず凹んで帰ってくるたびに皇は馬鹿にしたように笑うので、月人の中ではほぼ確信に近かった。
それでもあれ以来空腹を感じることもないし、皇もいつものように飄々としていて触れてこようとはしない。
シロエだけが少し距離を置いているという日常だった。
それでも皇の近くにいると妙にどぎまぎしてしまうので時間が空けば家や店を整頓清掃してしまっているせいで
着実に清潔で過ごしやすい空間へと改造されてしまっているのが嬉しくもまた腹が立つのであった。
そんなある日店先の窓をピカピカに磨いていると、
遠くから視線を感じ月人は振り返った。
いつもと変わらない町の風景。それでも妙な違和感があった。
そしてここ最近、そんな視線を度々感じるのだ。
「..もしかして.......」
ファンの子!?
月人は思わずピカピカの窓に映った自分にキメ顔をして見せた。
ここでこんな生活をしていることは内緒にしているのだが、もしかしてばれてしまったのかもしれない。
まあなんだかんだ言って俺目立つし?
最近魔法使えないせいかよく告白されるし?
こっそり応援してくれてるのかなぁ。困るな~困るけど悪い気がしない。
そうやってニヤついていると、急に窓に映った顔が眼鏡の怪しげな男の顔へと変わり、月人は思わずとびのいた。
ひょこりと窓の向こうから皇が顔を出した。
「1人でニヤニヤして気持ち悪いやつ」
「観察するな!」
月人が叫ぶと皇は外の方へと顔を向け眉根を寄せていた。
「今日は店じまいだ。」
「え?」
ぼそりと彼がつぶやくので、月人は思わず振り返ろうとした。
すると皇に腕を掴まれ店の中に引き込まれてしまった。
「わ、なにすんだよ!」
悪態を吐く月人を他所に、皇はてきぱきと看板をひっくり返し戸を閉めカーテンを引いた。
ガチャリと施錠し、振り返った彼の顔に思わず息を飲んでしまう。
なんの感情も見出せない冷たく凍った顔。
月人は思わず息を飲み、
知らない間に背筋を伸ばしてしまっていた。
「.......皇...」
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