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魔界カラノ使者 6

悲鳴をあげる間も無く女の手からステッキが滑り落ち、彼女の体は硬直したように真っ直ぐになり空中に浮く。 「さゆりさんに手出してみろ....いくらお前らでも許さんからな」 皇の低い声が響く。 女は死んだように無抵抗のままでも口元には笑みが浮かんでいた。 やばい気がする。 月人は地面を這って皇の元へと行こうとしていた。 殺せ、殺せ、殺せ。 そんな声が魔力の隙間に聞こえている気がしたのだ。 そしてその口車に乗せられてはいけないことを月人は直感していた。 目の前にいるのに、だんだん皇が冷たくて暗いところへいってしまいそうな錯覚に陥る。 「やめ...ろ...!」 月人は叫んだが、女の首が何かの圧力がかかったように変形し始めていた。 呼吸ができないのか、変な掠れた声をあげ始める彼女に月人は全身の力を振り絞って彼の足目掛けて飛び上がった。 「落ち着けバカ皇ィィィ!!!」 「うおっ!?」 抱きつくような形で突進すると彼はいきなりの下からの攻撃にそのままバランスを崩し床に倒れこんだ。 女も地面に降ろされゲホゲホと咳き込んでいる。 すかさず皇は上体を起こしたが、月人は必死に食らいついて離れようとしなかった。 「何すんだよてめェ!離せ!」 「っ、やだ!!!」 引き剝がされようと体を引っ張られても押されても彼の片足に抱き着いたまま動かなかった。 自分が知っている皇は、 ジャージ姿でだらだらと人をからかって笑うような厄介な魔女で。 こんな、冷たい眼をしたやつじゃない。 ただ、月人はそれが物凄く嫌だと感じていて、気付けばボロボロと涙が溢れ始めていた。 「今のお前なんか..っ、こわい」 何故自分が泣いているのかも、何故必死になって止めているのかもわからなかった。 ただひたすら痛くて悲しくて。 こうして彼に触れていると、殺意の裏側の悲しみに触れているようにも感じられて 自分が手を離してしまうと、彼が本当に冷たくて暗いところに落ちていってしまいそうな気がするのだ。 「....月人..」 やがて魔女の冷たい手が、月人の頭に触れた。 柔らかく撫でられて、涙で滲んだ視界の中彼を見上げる。 「げっほ...後、ちょっとだったのに...」 咳き込みながら女はフラフラと立ち上がった。

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