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魔界カラノ使者 7

「何があとちょっとだよ..気持ちわりーんだよお前ら 自分の命も、人の命も、なんとも思ってない..」 皇は低い声で呟いた。月人はまた彼が暴走するのではないかと不安になり腕の力を強めたが 彼はこちらを見ないままでも、 頭を撫で続ける手は優しいような気がして。 「ていうか、今思い出したけど俺今帰りたくても帰れない身だし。 こいつの餌だから、な」 「は.....?」 思い出したように皇が呟いた。 ピシリと凍りついた空気に亀裂が入ったような気がして、月人は恐る恐る魔女集団を振り返る。 女はわなわなと震えていた。 「な、なん...なんです....って、なんですってぇぇ!?」 「だから、俺こいつの餌になったの」 「使い魔ではなかったんですの!?」 そう。誠に不本意ながら皇は月人の所有物なのであった。 全くその実感はないが。 魔界や魔女の細かいルールはわからないが、やはり相当なことだったらしく女はフラフラとよろけ慌てて近くにいた魔女達が彼女を支えた。 「皇さまが..皇さまが...餌..!?なんてことなの...」 うわごとのようにぶつぶつと唱え始めた彼女は、少し哀れだった。 「そういうわけだから、帰ってネー」 皇はにこにこと微笑むとぽんぽんと月人の肩を軽く叩いた。 もう大丈夫だから離せ、というような合図だと悟った月人は彼の足をようやく解放してやる。 なんだかよくわからないが、皇が魔界へ帰っていくことも 何か恐ろしいことをしでかす恐れも薄れた気がしたから。 「ついでに俺のこと忘れる?その方が平和かもよ」 「...っ、イヤですわ!忘れるものですか...っ 皇さま...どうしてわかってくださらないの...!?」 女は泣いているような声で叫んだ。 どうやら彼女は皇に対して特別な感情を抱いているようだった。 しかし皇は、ため息をつきながら片手を前に突き出した。 「悪いな」 水平に真っ直ぐ伸びた掌をくるりとひっくり返すと 風が吹き始める。 くるくる、くるくると空気がかき混ぜられるように吹く風に魔女達は悲鳴をあげた。 しかし月人にはとても柔らかくて暖かくて、なぜだか心地いい気さえしたのだ。 くるくる、くるくると、やがて魔女達の体は空気の渦に飲まれキラキラした光の中に溶けて消えてしまったのだった。 風はゆっくりとやみ、店の中はしんと静まりかえる。 さっきまでのドタバタ騒ぎが嘘のようだった。 月人は呆然と皇を見上げた。 魔女の横顔はどこか寂しげで、悲しげで。 それでもホッとしたように穏やかであった。 「....あの人達...消えた、のか..?」 恐々話しかけると皇はこちらを見下ろし苦笑した。 「魔界に送り返しただけ。 うまくいけば俺のことも忘れてくれてるかもなー」 その言葉を聞き、彼が殺しをしてないとわかると心底安堵して月人はようやく立ち上がった。 強大な魔力達も今は薄らいでだいぶ活動がしやすくなった。 魔女とは本当に恐ろしい奴らである。

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