41 / 66

魔界カラノ使者 8

「全く...とんだ騒ぎ..........」 「皇!?」 言葉が途中で切れ、皇の身体がふらりと不自然に倒れ始めた。 反射的に月人は腕を伸ばし彼の身体が床に叩き付けられるのを防ぐ。 ぐったりと体重を預けられ、顔色もどこか青ざめていた。 「悪い悪い...ひっさびさにフルで魔力使ったから疲れただけ 大丈夫だって..」 「全力で脱力しといて何言ってんだ!バカ!」 月人は仕方なく彼を背負う形で抱え上げ、家の方へと向かった。 全く手のかかる餌である、と遺憾であったのだが なぜだか胸が苦しくて泣きそうになって、月人は唇を噛んで涙腺の活動を抑え込んだ。 「なんでお前がそんな顔するわけ...?」 呆れたように耳元で皇が呟いた。 月人は口を開くと何か良くないことが起こることはわかっていたので唇を噛んだまま黙っていた。 彼の指先が頬に触れぐにぐにと引っ張られても、黙っていた。 このよくわからないバカな魔女は、多分、 とても複雑な回路を泳ぎ続けていたのだろう。 それ故に、たった少しだけの本当に大切なものを必死になって守っているのだ。 明確なことは何一つ月人にはわからなかったが、 背中から伝わる温度の確かな暖かさが ただ、ここに生きていたい、と告げていた。

ともだちにシェアしよう!