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解放ト衝動 5

遠い遠い昔、まだこの世には吸血鬼がたくさんいて 人間の中に紛れて暮らしていた。 あれは遠い日々。 1人になったのもまた、遠い日々。 記憶も薄れ、忘れてしまいそうなほどに。 寧ろ、思い出さないようにと閉じ込めていたのに それでも心の奥底に媚びりついた感情が、 こんなときどうして、這い上がってくるというのだろう。 拭っても拭っても溢れてくる涙が 船底で声を殺し、脅えていた記憶を思い出させる。 月人はここから遠い国で生まれ、 吸血鬼の仲間と共に平和に暮らしていた。 ところがある日、人々の迫害を受け 仲間達は次々に惨殺された。 父は月人を出港する船に紛れ込ませた。 遠い遠い国にいるという母を訪ねろと。 2人が離れて暮らしている理由も、母が穏やかに死んだというその理由も月人には知る由もなかったし 知ることを拒み続けてきた。 ...心が、それに耐えられそうもなかったから。 激動の時代を生き続け、 再び平和な今の生活を手に入れるまでに もしかすると様々なものを失ってきたのかもしれない。 感情も記憶も、蓋をして見ないふりをしてきたのだ。 最初から1人でいれば、傷付くことも守る必要もない。 何百年の時をかけてようやく馴染んだこの国で 人の中にいても、誰の記憶にも残らないように生きてきた。 そこで出会った老婆が苦笑した。 寂しい思いをしていたんだね、と。

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