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解放ト衝動 6

月人は辿り着いた公園の滑り台の下に隠れるようにしゃがみ込んだ。 ポケットからぐしゃぐしゃの煙草の箱を取り出した。 口に咥えて火をつけようと震える手でライターを取り出すが、指先にバチッと電流のような痛みが走り思わず手放してしまう。 「くっそ...なんなんだ...っ」 痛い。 月人は諦めて泣きながら顔を覆った。 何もかも、まるで最初からなかったように忘れてしまいたい。 あの魔女の、口の悪い声だとか横柄な態度だとか 柔らかな横顔とか、寂しげな眼差しだとか 何もかも、何もかも...無くすと痛いと思えるものならば。 そうやって何度、忘れようとしてきただろう。 人間のように、素直になれていたら こうやって呆れられることも無かったのだろうか。 ぐるぐると暗い気持ちが胸の中で渦巻いて、息苦しい。 「....っ、...はぁ...」 息を吸って吐いてを繰り返しているとだんだん自分の呼吸の音が大きくなっていき 苦しさにだんだん上体を支えられなくなっていった。 心臓の脈が早まり、死んでしまいそうに手先が冷たい。 苦しい、苦しい。 悲しくて、苦しい。 涙が止まらなくて、そもそもどうしてこんな気持ちになるのかさえ わからなくて、歯痒かった。 「.....ーっ......」 喉を締められているような息苦しさに、月人はとうとう眼を閉じた。 もう、何もかもわからなくなりたい。 心が折れてしまいそうだった。 何も聞こえない、何もわからない。 ずっと永遠に1人でいる事ができたなら 寂しさも悲しさもそもそも感じないですむ。 暗闇の中で静かになる呼吸音を聞いていた。 何もかも忘れてしまおう。 そう思った時、皇の顔が思い浮かんで 苛立った。 なんで出てくるんだよ 俺のこといらないんだろ。 だったら、 だったらもう、 俺のことなんて.....。

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